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わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

ぼく、モアイ像が好きなんですよ。

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わにわにinterviewウラカタ伝⓼】

ちょっとミョウな「夫婦」写真を撮りためてきた、キッチンミノルさんに聞く【2/3】

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インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫

(2017.2 銀座キャノンギャラリーにて)

前回を読む写真のチカラ ──あるいはイッセー尾形とキッチンミノルのカンケイ


 前回に続き、キッチンさんには、『メオトパンドラ』の写真展で展示されている写真を見ながら、インタビューさせてもらった。

──夫婦ふたりの距離というか間隔が気になるんですが、これは撮影のときに指示しているんですか?

【キッチンさん(以下略)】 もちろん指示しています。インタビューのときに話を聞いていて、(ふたりの距離感が)これは遠いなぁ、と思ったら離します。くっつきすぎているのもおかしい。ほとんど、くっついてはいないですけど(笑)。

──被写体によっては、カメラに対してサービス過剰だなぁと思える写真もあるように思えましたが?

 このダンスしている夫婦(夫はシステムエンジニア、妻はコピーライター)は、ライターさんが『ふたりでいつもどんなことをしますか?』と訊ねたら、ダンスという答えだったので、それならやってもらえますか、と言ってしてもらったんです。場所は新しく作る家で、まだ壁とかがない柱だけのガランとしたところ。ふたりで社交ダンスしてもらったんです。断られるかと思ったら、『やりましょう』。あっ、やるんだ(笑)。

──それを聞いて見直すと、当初の印象がちょっと変わるのが面白いな。

 なんでしょうね。印象って、何回か会ううちに変わることがあるのと似ているかもしれませんね。

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──写真を撮るとき、カメラマンによっては、ずっと黙っているひともいるけど、キッチンさんは撮影のときには話しかけるほうですか?

 あまり、しないですね。とくにこの連載のときは、記憶を振り返ってもらいたいのと、10年後を想像してもらいたいので。(目線は)あっちを向いてください』というくらいで、表情をどうしてくださいとは言わないです。目線と、ときどき手の位置。手は、こうしてくださいとは言います。重要なので。
 だから目線と手ですね、指示するのは。『ふだん、どうしていますか。ポケットに手をいれたりしています?』というのは聞いたしります。ふだん撮られ慣れていないとカチコチになったりするでしょう。たぶん、このあと撮影する僕がそうだと思うんですけど(笑)。

──1冊の写真集にまとめてみて、気づいたことはありましたか?

『型はない』ということですかね。人間と人間が試行錯誤して作り上げているものが写真に出ている。きれいごとではすまないのが夫婦だなぁって。

──写真集の中には、雑誌に掲載後に離婚した夫婦も入っているんですよね。

 本に入っているのは一組だけです。ほかは、出さないでほしいと言われたので。夫婦って、家族なんだけど、結局は他人なんですよ。親子は家族だけど。
 たとえば、会ったことのない親にも、子供って何か思ったりするじゃないですか。夫婦には、それはない。それくらい子供と親は固いんですが、夫婦は人間と人間が一緒になっているんだなと、写真を見返していて思います。


──一度、ここにも展示されている演出家と元女優の夫婦の撮影に立ち会わせてもらったことがありましたが、その時の様子は、キッチンさんは言葉数が少ないんだけど、じっくり時間をかけて一枚一枚撮られていた。インタビューの間はすこし離れたところに座って聞いていて、撮影は稽古場と事務所のリビングの二箇所、場所を変えて撮影されていました。

 そうですね。撮るときは、ほとんど会話はしないんです。理由は、必ず『十年後のふたり人のことを考えてください』と言いながら撮っているので、僕が(気配として)入らないほうがいいんです。その間、思い浮かべてほしいんですね。だから、僕がしゃべる必要はない。本人たちは、場所を移動している間も、『十年後のこと』を考えながら歩いていると思うので。

──そういう撮り方をするようになったのはいつ頃から?

多摩川な人々』という写真(2010年に写真集発行)を撮ったときがそうでしたね。あのときは、たまたま出会った高校生の男の子たちに声をかけ、『10年後を思い浮かべてください』と言って、5分以内に撮っていました。『かっこよく撮るから』って。フィルムを無言で巻いて、『じゃ、撮ります』といって撮っていました。だから『AERA』の連載は、その進化版ですね。

──『多摩川な人々』は、たまたま声をかけた制服の高校生たちや散歩していたひとたちが、みんな横一列に並んで、一点を見やっている。ポーズがキメゴトになっていますが。あれは?

 モアイ像が好きなんです(笑)。

──それが理由?

 はい。モアイ像も、ある意味、定点観測なんですよ。だから僕はそこに入り込まないほうがいいんです

──入り込まない?

 入り込むんですけど、だんだん。僕の感情はそこに持ち込まないというか。モアイ像が好きだから撮っているんだけど、だからといって、そこに何らかの意味をつけようとはしていない。

──そうかぁ。最初に感じる印象と、キッチンさんご本人とその撮り方は180度逆転するくらい違うんですね。前にも話したと思うんですが、AERAに連載されていた夫婦の写真を見ていたときは、キッチンさんの撮る夫婦の写真は、目線や姿勢にすごくインパクトがあって、しかも被写体の二人がフィギアのようで、写真家の強烈な意思を感じ、惹きつけられる一方で反発を感じていたんですよね。「これは、もう自意識のつよい写真家にちがいない」と。でも、会ってみたらぜんぜん印象が異なっていて。

 ははは。わかります。

──だからこのインタビューの最初の質問(前回掲載)は、そのキッチンさんが、イッセー尾形が好きというのはどう結びつくんだろうかというのが興味でもあったんですが。

 僕は、僕自身のことはちょっとわからないですけど(笑)。撮影されているときに見学されていて、ああいうふうに撮るとは思わなかった?

──そうですね。演出家の夫のほうは、キッチンさんの指示に、「あんた、俺をどう撮ろうというだい」と値踏みするようなところがあって、指示には従うけど、内心反り返るのがプンプンしている。敵愾心とまでは言わないけど。一方の妻は言われたままにポーズをとっていて、なるほど元女優さんだなぁと思いながら見ていました。夫からチャチャを入れられても、キッチンさんはさらっとかわして、媚びたりしないのも印象的だった。しかも、最後は夫の車椅子に妻を腰掛けさせたりして。

 写真を見て、ふたりとも足が悪いと思われました?

──そうでないのは知っているからそうは見ないけど、知らないとそう思うかもしれないですよね。でも、以前インタビューした記事中に、この写真のことも文章で触れたんですが、校閲のひとは、夫が片脚だということに気づかなかったみたいですね。足を曲げて座っていると勘違いしたみたいで。

 ああ、そうですか。

──もしかしたら顔のふてぶてしさに目がいって、足のことは視界からとんでいたのかもしれない。でも、キッチンさんが「つま先に内面が出ている」という話をされて、見返すと、バレーダンサーが踊るときのように彼がつま先を立てているんですよね。顔と足との表情が逆転している。

 そうなんですよ。

──あのアン・バランスさがよかったですね。たしかに写真をじっと見ていると、自然と景色に目がいく。そっちが気になるというか。

 僕は、どちらかというと撮るときには、風景が大事なんです。人よりも、風景が。ふだんどこで何をやっているのかが、わかる。たとえば、夫婦の写真だと、ふたりが慣れ親しんでいるところで撮るんですよね。その風景の細かいところにその人が出る。だから、細かい情報が大事なんです。
 たとえば、この写真、病院の待合室なんですが、
(男性)はちょっ気難しそうな表情をしている。だけど、壁にスキーをしにいったときの写真が飾ってあったり、棚にかわいい人形が置いてあったりして、しゃべるとそうでもないのかなぁという。だから場所は大事なんです。


──子沢山の夫婦の写真がありますね。これは大人はちゃんと撮られるカタチをしているけれど、5人の子供たちは、ポカンと口をあけていたり、硬くへの字にして、泣き出しそうだったり。もうバラバラ。

 下の女の子は、早く終われよ、という顔ですよね(笑)。こういうとき、子供には家族じゃなくて、『自分が10歳トシをとったときのことを想像して』というんです。子供は、家族のことなんか考えてないですから。

──子供の年齢によって、「我慢の度合い」がそのまま表情に出ていて、年齢とともに社会性を身につけていくというのがわかります。

 いつもカメラから同距離であることが撮る前提なので、けっこうこのときは細かく位置を指示していたりするんですよ。『あと10㌢前に出てください』とか。撮ります、といってなかなか撮らなかったり。ずっと待っているんですよね。

──だから、抱っこされている子がへの字になっているのか(笑)。

『なに、やってんだよ!!』でしょうね。

──待つというのは、強固な自我がなきゃできないですよね。

 そうですかね。

──あと、印象に残るのは、パン屋さん。ご主人が手をグーにしている。頑固な職人さん気質を感じさせますね。

 あれは指示しましたね。話を聞いていて、意思のつよいひとだったので。

──奥さんのほうの手の位置については?

 自然だったように思います。後ろに組んでいたら、前に出してくださいは言ったかもしれませんけど。

──パン屋さんの仕事場でというのが、拳と合っていますね。この風景とはちがう場所だと、ただ気難しそうと映るかもしれないですけど。

 だから背景の大事になってくるんです。

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──ここにはないけど、夫婦で介護施設を営んでいる写真がありましたよね。立っている旦那さんの手を、利用者のお婆さんが手を差し出して握っている。緊張して手が伸びたのかなぁという。あれは視界には?

 あのときは気づいて撮っていますね。ああいうちょっとしたところに、ひとの気遣いって出るんですよね。

──いちばん好きな写真ですね。

 そうですね。でも、撮るときに気づいていないと、『手をまっすぐにしてください』とか言いかねない。もし逆に、撮ろうとして手を離したりしたら、いまのままでお願いしますといったりするでしょうね。

──キッチンさんは、撮影に入る前、インタビューに立ち会われているとき、どのようにされているんですか?

 クセとか。このひとは、こういう足の組み方をするんだなぁというのを見ていますね。インタビュー中に頬杖をつくのを見ていて、『こうやっていたのをやってください』と言ったりします。ただ、それだけを集中して見ているというわけではなくて、それじたいが僕のクセみたいなものですよね。あとは、撮影をうまくするためにインタビュー中に出てきたキーワードを覚えておく。

──たとえば?

 ……すぐには思い浮かばないですが、インタビューでしゃべったことを踏まえて撮りますよ、というのは本人もうれしいと思うんです。

──たしかに。ところで、今回の写真展に選んだ写真の基準は?

 まず、本の中から選ぶというの……。でも、正直に言うと僕はどれでもいいんですよ。

──作品となった写真に甲乙はない?

 そうです。どれも好きだし。

──でも、選んではいるんですよね。

 ですね。このひとは会場に来るかなぁ。来たら、喜ぶかなぁとか(笑)。

──というくらい、ほんとうに特段の甲乙ナシなんですね(笑)。

 はい(笑)。

──あと、閉店される神戸の「海文堂書店」という老舗の本屋さんの、閉店までの一日を撮った写真集がありましたよね。

 あれは、僕の奥さんが夏葉社さんという出版社で本を出していたというのがあって、その夏葉社さんが取引していた神戸の本屋さんがなくなるというので写真を撮ってくださいということだったんですよね。それで初めてその本屋さんに行って、撮影じたいは一日じゃなくて、二回通いました。

──ワタシは昔、書店営業で神戸にも行っていたからこの本屋さんのことは知っていて、郷愁みたいなものを抱きながら見たんですけど。棚に並んでいる本の背表紙が一冊一冊きちんと写っていて、絵画みたいにきれいなんですよね。現場で、どういうふうに撮ろうと考えたんですか? 本に興味がないと、こうは撮らないかなぁと思いました。

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 有名な本屋さんだったんですよね。一冊一冊、本のタイトルがわかるように撮るというのは意識しました。そのために、三脚も立てて。
 でも、本棚って撮るのは難しいんですよ。どこまで絞るか。技術的な話になるんですが。

──その難しさについて、もうすこし話してもらえますか?

 ピントを絞って、目の前の本に意識を集中させながら、でも奥にも本が並んでいるのも感じさせる。背表紙がきれいだから、角度を変えてきれいに撮ろうとしたり。でも、まあ、技術的な話ですからねぇ。

──この写真集を見ていて、ワタシがライターの仕事を始めたとき、いまから20年以上前ですけど、作家さんの書斎でインタビューするというのを週刊誌の連載でやっていて、残念だったなぁと思うのは、一緒に仕事をしていたカメラマンは作家のポートレイトは的確に撮るんだけど、その空間というか、周囲の本棚にはまるで無関心だったこと。もったいないなかったなぁと。

 僕の母方のお爺ちゃんがフランス文学者で、プルーストとかの翻訳をしたりしていた井上究一郎というんですが。家に行くといっぱい本があったんですよね。だから子供の頃から本棚が好きで、ひとの家に行ったら必ず本棚を見ますね。

──キッチンさんのこの本で、好きな写真というのは?

 (捲りつつ)これ、好きですよ。

──スリップの仕分け棚。いいですね。本に必ず挟まれている短冊で、書店は一冊売れたら本から抜き取り、その日に何がどれだけ売れたか分類するんですよね。昔はどの書店でもデータ管理に使われていたものだけど、大型書店がPOSを導入してからは、いまはそういう使われ方はしなくなっている。でも、この本屋さんは、最後までPOSを使わずにきたんですよね。レトロだけど、本屋さんの歴史がうかがえました。

 特別仕様で、存在感がありましたね。あと、さっきの偶然性みたいなことでいうと、写真のよしあしは別にして、この写真です。色紙にサインしながら途中で墨がなくなったのか、書き足した部分の文字が薄くなっている。それがそのまま飾ってあったりする。同じサインでも、こういう、ちょっとしたところに人間性が感じられるのが好きですね。

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──キッチンさんらしいですね。二回と言われましたが、撮影は?

 まる一日を二回。朝から夜まで。本屋さんて、大変だなぁと。午前中、荷物が入ってきて、みんなが急いで仕分けして、というのを見ながら。

──そうか。その中でもスリップを撮るというのが、でもキッチンさんですね。

 それが何か知らなくとも、存在感がありますから。

──たしかに、ワタシが本屋さんに入社したとき、最初に目に入ったのが阪神の江夏にそっくりな仕入れの主任さんの机の前にあった。これと同じスリップの仕分け棚を思い出しました。

 昔は、これを貯めて出版社に送るとお金になったんだそうですよね。自分たちが作った本がどのようにして店頭に並ぶのかも知れたということはよかったですね。

──この日は、ずっと撮っていたんですか。


 お昼休憩もせずに、ずっと立ちっぱなしでしたね。独特な時間でした。


 ワタシが昔やっていた書斎を訪ねる仕事の写真だが、キッチンさんは「自分が撮るとしたら、それも掲載されるのが一枚しか使用しないものなら、一秒か二秒かけて全部にピントが合う写真を撮ると思う」という。じつは、ワタシの中での写真家キッチンミノルに対する印象が激変したのは、この書店の写真集を見たときからだった。
AERA」の夫婦の写真のときの、どこか奇を衒ったかに思えた作為はそこには感じられず、ひたすら書棚とそこに並ぶ一冊一冊の本と、働く書店のひとたちを撮影していたのだった。

 

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メオトパンドラ

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