わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

りんご飴マン、赤ん坊に泣かれる


青森県弘前市に移住した、
りんご飴マンさんに聞きました。【2/4】
  

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 わにわにinterview②ぼくの理想は、メガホン」 

りんご飴マンさんと、ぷらぷら
弘前を歩いてみました(後編)

インタビュー文=朝山実
撮影©山本倫子

 

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真っ赤な顔、頭にぴょんと棒が突き出た
「りんご飴」の格好をした若者をご存知ですか? 
この春、東京から青森県弘前市に移住。県内で、急速に認知され、ニセモノまで出没するようになったご当地「ゆるキャラ」ならぬ「生キャラ」さん。ちなみに「生キャラ」は顔バレしちゃっていることからくる自称で、「なかのひと」の正体はいちおう不明です。この度、そんな彼に会いに弘前を訪ねてみました。

 

Do you know  "Ringo-ame.man=Japanese Apple Candyman"?
He emigrated to Hirosaki-shi, Aomori from Tokyo in the spring of 2015.
He resembles that the Superman. Only just a little.
If you meet him, there is a rumor that anyone can feel "happy".
However, nobody knows who he is.
But, Many people of this town know "Ringo-ame.man".

 

☟連載の最初の回から読みなおす



公園でりんご飴マンを撮影していると、遭遇する人たちの反応が二分される。
遠巻きに避けていく人がいれば、吸い寄せられるように近寄ってくる人たちも。
外国からの観光客は、笑って通り過ぎることが多い。ハロウィンのイベントだと思っている人もいた。反応が面白い。

── どちらかというと、好意的にひとに囲まれるのが多いですよね。

りんご飴マン(以下、同)「初見だと近づきづらいでしょうが、ツイッターとかで僕のことを紹介してくれるひとが『いいひとだったよ』とか言ってくれたりしている効果もあると思います」

「え、アメマン? 知らないけど、そうなの。こっちで人気あるの。じゃ、ほら、一緒に写真撮ってもらおう。ほらほら」

大阪からやって来たという元気いっぱいのオバサマたちのひとりが、ツレを手招きする。たちまち集合写真を撮ることになった。

 

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「このひと、アメマンというんだって」

車椅子を押していた女性が腰を屈め、耳元で話しかけている。
介護ボランティアの人たちとも写真を撮らせてもらった。
県外には認知されていないみたいだが、カメラの前でみなさん楽しそう。
とくに女性陣に受けがいい。 

 

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「よう見たら、あんたイケメンさんやなあ」と先ほどの大阪の女性。
「がんばってやぁ!」

頑張るほどのことはしていないが、エールを頂戴し、

「はい。ありがとうございます」

ヘンシンしてからも、飴マンのトークは相変わらずで、態度も礼儀正しい好青年だ。
そりゃ好かれるわ。

 

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お城には入らず、次に向かったのはクルマで15分ほどの、りんご農園だ。

「標高いくらだと思います?」

遠くに見えるのは「青森の富士」といわれる岩木山だ。

── 高く見えますね。いくらだろう。

「約1600メートルなんですよね。富士山の半分以下。ほかの山々が平らなので、大きく見えるんでしょうね」

 

それで、会話は途切れた。

  

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「あっ、ザリガニ!!」

「りんご農園」の土産物センターを兼ねた販売所で、女性客の大きな声にこちらがびっくりしてしまった。声のした方を見る。

口に手をあてながら、女性が飴マンを凝視している。

隣にいたツレの女性が、

「ちがうわよ。りんご……」

「りんご飴マンです」

「そうそう、りんご飴よね、見たことあるわ。ザリガニなんてねぇ、もう」

笑い声。
県内のひとらしい。

飴マンさんは、もう何度も似たようなやりとりをしてきたのだろう。お笑い芸人を目指す若者ならば、ここはテンションを上げ、弾んだ声にもなるものだろうけど。いっこうに変わらない。いたってジミだ。

収穫したばかりの黄色い「トキ」と赤い「早生ふじ」の大玉を一個110円で販売していたので、試食させてもらうと、トキが甘い。美味しい!!

「トキは、シナノゴールドに近くて、来月になると、旬はふじになるんですよね」

さすが、りんご飴マン。詳しい。 

 

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「うわぁー、見てみて、怖いよー」

幼稚園くらいの子供が、走り出した。
ピクニックなのか、若いお母さんと子供たちの一団と出遭った。


── 泣きそうな顔してましたね。

「ですね」

 

「あっ、あれあれ」

今度は口々に声をあげながら、子供たちが飴マンめがけて押し寄せてくる。

「うわぁ!!」と大きく口をあける飴マン。

「こわいーー」

跳び離れるものの、チビッコたちはすぐに、

「面白いー」

と距離を詰めてくる。どっちなんだ。 

なかのひとりが「りんご飴だぁ!!」
歓声をあげると、すぐに取り囲まれる。
スマホを手にしたママさんたちから記念撮影を頼まれた。


「じゃ、いくわよ。エビ!」

「カニ!」

はしゃいだ笑い声。

そうか。もう「はい、チーズ」の時代じゃないらしい。

遠巻きにモジモジしていた子までもが、飴マンの身体にタッチしていた。ペタペタと。

スマートホンを手にするママさんに聞いてみた。

── りんご飴マンさんを知っているんですか?

「知っていますよ。最近有名ですよねぇー」

── 何がきっかけで知ったんですか?

「フェイスブックです」

わたしも、そう。二人、三人、ママさんたちがうなづき返してくれる。

「たしか相馬に住んでらっしゃるんですよね」

── 詳しいですね。


「ね」と顔を見交わすママさんたち。

職場の同僚どころか、まったくの他人にもバレバレじゃないか、飴マン。


「こんなところで会えるなんて、ちょっとびっくり。よかったねぇー」

ママさんが、子供たちに話しかけている。カメラマンが視界に入ったのだろう。 

「きょうは、どうして?」

── 東京から、彼の取材に来たんですよ。

「へぇー!!」

── もともとりんご飴マンさんは、東京のひとで、この春に移住してこられたんですよね。

「そうなんですかぁ」

── 東京にいるときから、あのカッコウはされていたらしいんですが。

「ああ、そうなんですかぁ。このヘンじゃ有名人ですよ。じゃぁ、きょうは何かのイベントというのでもなく、オフなんですか」

……オフ?

オフに見えるのか、飴マンのこのイデタチが。

なるほど。オンとオフ。境目の線引きは、りんご飴マンにとってどこにあるのだろう。クラークケントならメガネをはずし、マントをなびかせているときがオン。つまりスーパーマンとして活躍している最中だ。それに倣うなら、りんご飴マンはすでにヘンシン済みなわけで、オンに入っているはず……。
そうすると、りんご飴マンにとってのオフ状態はどんなときなのか……。

考えているとこんがらがる。
……やめよう。


  

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── 飴マンさんは、弘前市長よりも有名なんじゃないですか?

「そうでもないですよ」


公園をただ歩いているだけで、キッズたちが後から後から追いかけてくる。

赤ん坊を抱きかかえたママさんたちから、

「抱いてやってもらえませんか?」と声をかけられた。

相撲の力士に抱っこしてもらうと福を授かるとかいうのは聞いたことがあるが、さて、りんご飴マンの福はどうなんだろう。

 

「ああ、いいですよ」
飴マンが両手を伸ばすと、赤ん坊が突然、ワァーと泣き声をあげた。
ママが前に差し出そうとすると子供は必死の形相で顔をそむけ、ママにしがみつく。

ぎゅっ。小さな手が拳になっている。

手を止めるりんご飴マン、29歳。独身だ。
子供の扱いは、どことなくぎこちなく見える。

「だいじょうぶだよー」
ママがとりなそうとするほど、

うンぎゃー、赤ん坊の顔は、歪んでゆく。
泣き声が止まらない。それでも動じないのがママさん。


「じゃ、写真撮ってもらおうねぇ」

あやしながらコンパクトカメラを取り出し、
ギャー、ウェーンと泣きじゃくるなかでの写真撮影となった。

その間、いっこうに顔色を変えない、飴マン。
変えようもないだろうけど。

 

「あれぇ、なにしてんですか」と声がかかる。
青森のご当地アイドル「りんご娘」のマネージャーさんだという。
この日は「りんご娘」誕生15周年の記念イベントが公園内であり、りんごの木の植樹とタイムカプセルを埋める式典が行われるらしい。

「せっかくなんですが、きょうはイベントに参加できないんですよ」

飴マンさん。そう言いながらも、後にこんなふうに飛び入り参加していた。マメだ。

 

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    ☝りんご娘さんたちと記念のタイムカプセルを埋めています

 

  ☟自身のツイッター用にイベントの様子を撮影中

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「シードルとか飲みます?」

── りんごのシャンパンですよね。大好きです。

「じゃ、これから工場があるんで行ってみますか」

飴マンさんの先導で、公園内にあるシードル工場に向かった。 

 

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大きなガラスの窓からタンクを覗いていたら、なかから作業をしていたひとがわざわざ出てきて、説明をしていただけた。
臨時の工場見学みたいだ。これも飴マン効果なのだろうな。


「キモリというのは、ご存知ですか?」と工場のひと。

りんごを収穫し終えたあとに、一本の樹に一個だけ実を残す。それを「木守」といい、りんご畑の神様に「来年もまたよろしくお願いします」とお供えにするのだという。

教えていただ高橋哲史さんは、「弘前シードル工房 Kimori」の代表者だった。 

 

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「そういうふうに意図して残すこともれば、高いところにあって、収穫しもれて残ったりしたときに、『ああ、いいよ。あれはキモリだよ』と言ったりするんです」
と高橋さん。

収穫したりんごは、この工場でシードルにしてゆく。
スイートとドライの二種類がある。
違いは醗酵までの日数で、一週間くらいの差で、期間が長くなるほどアルコール度数は増す。スイートが3%。ドライは6%。 

せっかくなので試飲させてもらった。
一杯300円。グラスではなく、特製の湯呑で出てきた。

「ドライは口当たりがいいから、ついつい飲みすぎ、酔っ払っちゃますよ」

シュワシュワ~~~という泡立ちが、美味。

── ぐいぐい行けそうだなぁ。うひひ


りんご狩りをしてきたばかりのワタシが提げていた袋のりんごを見て、高橋さんが、こんな話をしはじめた。

「食べたりんごから一個ずつ種をとって、家で植えてみてください。翌年には10個なら10個、芽が出てきます」

── マンションのベランダでも?

「はい、芽は出ます。ほんとうです。それを剪定して、虫をとってあげたりしていたら7年後にりんごが収穫できます、ベランダでもなります」

7年間かぁ。
でも、ちゃんと育てたらということらしい。高いハードルだ。

「それで、『さあ、あの美味しかったトキが食べられる』かというと、10本の木にぜんぶ違う品種の実がなるんですよ」

── トキだからトキが成るとは限らない?

「そう。ちがうんです」

── それはどうしてですか?

「りんごの木に花が咲きますよね。そこに花粉が飛んできてりんごの実になるんですが、トキの花にトキの花粉が着いても、実はならないんです」

── どういうことですか?

「たとえば、ふじとかの異なる種類の花粉が飛んできて初めてりんごの実になるんです。だから10個りんごがあれば10個、生まれてくるりんごのDNAは違っている。それが繰りかえされるんです」

へえー。驚きだ。
ということは、一個として同じりんごは、この世界に存在しないことになる。面白い。
いいぞ、りんご!!

「それに、畑にふじの木は一杯ありますが、種を植えて増やしていっているんじゃないというのをご存知ですか?」

── えっ、そうなんですか?

「りんごの枝を切ってきて、違う種の樹に接木するんです」

── はぁ……。

「上の部分は、りんごの木ですが、下は違う種類の木なんですよ」

── 土台は、りんごじゃない?

「りんごじゃないんです」

ワタシは思わず「ウソ」と声に出していた。

「いえ、本当です。だから十本りんごの木があると、ぜんぶ違うものなんですよ」

それまで黙って聞いていた、飴マンさんが訊ねた。

「ということは1本のりんごの木では、実はならないんですか?」

「そうです。最低2本、ちがう種類のものがないと。その2本にも相性があります」


複雑な生い立ちじゃないか、りんご。相性って。りんごにも好き嫌いがあるのか。東京に戻ってからワタシ、気になり、ちょっと調べてみました。

こういうことらしい。


 

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☝このシードル、単体で飲むならスイーツ、
食事しながらだとドライがおすすめだそうで、
弘前で飲める店は焼き鳥屋さんが多いのだとか。

 

── ではでは。シードルも、りんごの種類で味は違ってくるんですよね。

「はい。いまは、ふじを使っていますが、春に仕込むのと秋とでも違いますし、いまだと水色のラベルの壜ですが、次に出るのはピンクのラベルのもので、りんごも異なります」

── じゃ、その年のりんごの出来によっても?

「今年は雨が少なかったねぇとか、雪が多くてとかいうので違ってきます」

── ワインみたいですね。

「そうですね」

なんだか奥深いぞ、りんご!!


カメラマンの山本さんが「せっかくだから写真を撮らせてください」という。ここではじめて名刺交換をし、高橋さんがこの工場の代表であるとともに、りんご農家さんでもあることを知ったのだった。


── 話がうまいので、ガイドを専門にされているひとだと思って聞いていました。

「いえ、りんごの生産で生計を立てています(笑)」

生産量とともにシードルの販売スポットはまだまだ限られているが、通販は可能とか。試飲してシュワシワー~~~がすっかり気に入った。ワタシの好みはスイーツだな。

 

☟次回へつづく


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器の釉薬は、りんごの灰を利用したもので非売品。
テーブルはリンゴ箱で作られている。エコだしシンプル。

 

☟思わず頬すりすりする、りんご飴マン。 

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 ☟アポなし取材しました。

 

 ☟連載の過去記事ご案内
  「るろうに剣心」シリーズのアクション監督さんに聞きました。