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わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

ヒロマエだと思いこんでいた僕が、弘前に移住を決めた理由

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青森県弘前市に移住した、
りんご飴マンさんに聞きました。【3/4】
  

 

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 わにわにinterview②ぼくの理想は、メガホン」 

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りんご飴マンさんのご自宅でインタビューしてみました(前編)

インタビュー文=朝山実
撮影©山本倫子

 

顔は真っ赤、頭にぴょんと棒が突き出た
「りんご飴」の格好をした若者をご存知ですか? 
この春、東京から青森県弘前市に移住。県内で、急速に認知され、ニセモノまで出没するようになったご当地「ゆるキャラ」ならぬ「生キャラ」さん。ちなみに「生キャラ」は顔バレしちゃっていることからくる自称で、「なかのひと」の正体はいちおう不明です。この度、そんな彼に会いに弘前を訪ねてみました。

 

Do you know  "Ringo-ame.man=Japanese Apple Candyman"?
He emigrated to Hirosaki-shi, Aomori from Tokyo in the spring of 2015.
He resembles that the Superman. Only just a little.
If you meet him, there is a rumor that anyone can feel "happy".
However, nobody knows who he is.
But, Many people of this town know "Ringo-ame.man".

 

 

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「この辺りは、3メートルくらい積もるんだそうです」

 クルマのハンドルを握りながら、りんご飴マンさんが話す。
 道は上り坂になっていく。家と家の間隔がながくあいてきた。


── 冬、それだと不安ですよね。

「そうですね。屋根の雪かきとか体験したことないですからねぇ」


 人口減少が止まらない地区とはいえ、コンビニもあるし、15分くらいクルマで走ればショッピングセンターもある。

「最近、このちかくでクマが出たというんですよ」

── イノシシじゃなくて?

「クマ。ツキノワグマらしいです」

── 道で出遭ったら、どうするんですか?

「どうするんでしょうね」

── りんご農園にいたときに、ドーン!!!と鉄砲の音が何回も響いていたんですが?

「クマではなくて、あれは猿避けです。収穫時期になると畑にやって来てくるので。
 実際に撃っているわけではなくて、ガス鉄砲なので、効果はなくなってきているみたいですね」

── そういえば振り返っていたのは、よそ者のワタシひとりで、みんな気にしてなかったですね。

「僕もこっちに来た最初は何だろうとびっくりしました。でも、もう慣れました」

 

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「着きました。ここです」

 クルマを降りたのは、日が暮れようとする時刻。りんご飴マンさんが暮らす「借家」は、弘前市内の中心地からクルマで20分くらい山間へ道を走ったところにあった。
 純和風の二階建築で、前庭もある。裏にまわれば、広い畑も。同じ敷地の隣家には、大家さん一家が暮らしているという。

 

── お屋敷じゃないですか。家賃いくらなんですか?

「月3万円ですね」

── 畑には何がなるんですか?

「トマト、トウモロコシ、胡瓜、茄子ですね」


 鍵をガチャガチャし、引き戸を開けた。
「汚いですけど、あがってください」
 とスリッパをだされる。
 玄関に、宅配のフダが貼られたままの黒いギターケースが立てかけてあった。夏に音楽イベントに参加した、とツイッターに書き込みがあったのを思い出した。

「ぜんぶで8部屋あるんですが、使っているのは、一階のリビングと寝室の二部屋だけです」

── ここに、ひとり?

「はい。ひとりですね」


 空間が広すぎて、ひとりはちょっと淋しいかも。
 …トントン。扉を叩く音がする。
 飴マンさんが玄関に向かっていった。


「あのう、これ回覧板」
「ありがとうございます」
 やりとりが聴こえた扉が閉じられた。

 回覧板ね。
 ワタシが横浜の住宅地で暮らしていたときにもあったが、転居してマンション暮らしをするようになってからはその存在を忘れかけていた。
 メンドクセェーと、ろくに見もせずに隣に回していたが、隣家が遠くに離れていると感覚はちがってくるかもしれないなぁ。

 飴マンさんが引越したばかりの頃、毎日のように村のひとたちがやってきたという。採れたての野菜なんかをもって。寄り合いの誘いも。転入者は久しくなかったからだろう。それもまだ20代の若者だ。

 

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── 自炊とかするんですか?

「しないと、このごろ不安になってきたので」


 インタビューはリビングでさせてもらった。
 突然の訪問で、空き缶で膨らんだゴミ袋がキッチンのハシに見える。外食続きだったが、最近は倹約モードに切り替えているという。

 

「給料は、東京の半分くらいに減りましたね。あと地方税。前年の収入で計算したものが翌年にやって来るというのを知らなかったので、けっこう痛いですね」


 移住後、イベントに出かけて行く交通費など負担が増え、やりくりはタイヘンだそうだ。

── 前にも話したと思いますが、ワタシがりんご飴マンさんに興味をもったのは、出没ポイントなんですよね。スターバックスセブンイレブン弘前市1号店の開店に並んだりして、公式キャラを押しのけ、テープカットの真ん中にいたりする。あるときは、友人を訪ねて震災の被災地の周辺の牧場に登場する。一見したところ目的が定かでない。そもそも何でこういう活動を始められたんですか?

 

「まず、『りんご飴』というwebサイトを学生時代からの友人、三人で始めたんです。自分たちが、いいと思うものを形にして残したい、ひとに伝えたい。伝えるにはどうしたらいいんだろう、と考えていたんです。
 たとえば、『僕たち青森に行って、りんごのことを勉強しました』と言っても、誰も見向きもしないですよね。有名じゃないひとがやっているものに、ひとは興味をもたないでしょう」


 そもそものスタートは『美女×りんご飴』だった。
 友人たちとの雑談中、「りんご飴を持っている女の子ってかわいいじゃン」と軽いノリでwebを立ち上げた。サイトはいまの継続している。覗いていると、モデルの女の子やアイルドルユニットが登場するオシャレなものだった。

 映像部門は、友人でもある、J-Popユニット「水曜日のカンパネラ」のミュージックビデオなどを手がける藤代雄一朗さんが担当。2012年8月にスタートして以降、月1~2回ペースで連載更新している。毎回趣向を凝らしていて、思いつきというにしては「遊び」の域をこえた持続力だ。

 当時、ナカタトオルさん(りんご飴マンの“なかのひと”の仮名にしておきます)は、都内の広告代理店に勤務していた。職種は営業で、徹夜も珍しくないくらいの多忙さだったという。
 更新サイクルから推量するに、休日の時間のほとんどをこのサイトに傾注していたのではないだろうか。

「自己満足的なことを繰り返していたんですよね。
 
自分が納得しているのならそれでいい。そう思いつつ、たくさんの人に知ってもらいたいという気持ちもつよくあって、見てもらうためには何かしないといけないと思っていたんです」


 ひと目を引こうとノリで始めたのが、「りんご飴マン」のスタートだった。かぶりモノは、東急ハンズで販売しているカニを用いている。テッペンのクロポチが目立つのはそのためだ。

── ナカタさんたちが最初に青森を訪れたのは、いつのことになるんですか?

「3年前です。『りんご飴』のサイトを立ち上げて一週間ほどした頃に、『俺たち、りんごのことよく知らないよな』って話になって、りんご飴といったらリンゴ、リンゴといえば青森だろう。じゃあ、みんなで行ってみようかとなり、弘前の隣の黒石市にある、りんごの研究センターに飛び込みで見学させてもらいました。
 何百種もあるりんごの品種とかを教えてもらったりしたんですが、『りんご飴は、こっちにないんですか?』とたずねたら、『ナニ、それ?』だったんですよね」

 

 

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「りんご生産日本一」の青森県内で「いちご飴」を発見できても、「りんご飴」を見つけることはできなかったという。

 

「それから一年ぐらいした頃に、『りんご娘』というご当地アイドルがいるというのを知って、もう一回青森に行ったんです」

 

 今度は「りんご娘」の事務所と事前にコンタクトをとり、『美女×りんご飴』のサイトにアップした。以降、ナカタさんは足繁く弘前へ出かけていくようになる。

 

「なにがよかった? ひとですね。人柄も、土地柄も。感謝する気持ちとか。当時は毎日が満員電車に揺られ、徹夜続きの環境だったので、東京と対比して見えたんですよね」

 ナカタさんは、淡々と話す。

 

── 移住するまでに惹かれるというのは相当だと思うんですが?

「うーん……駅に降り立ったらガランとしているわけでもない。東京みたいに賑わっているわけでもない。ほどよくまばらに、ひとが歩いている。ご飯も美味しい。ひともいいし。ド田舎でもなく、すごい観光名所があるわけでもない。それでいて、あまり知られていない感がいいなと思ったんです」


── 知られていない感、ですか。

「そう。でも、そう言いながら、じつは最初、弘前を、ヒロマエと読んでいたんですけどね」

── それぐらい、よく知らなかった(笑)

「ですね。自分にとって未開拓の地だからこそ、探し甲斐はありそうだなと思ったんですよ」

── ほかに具体的な何か惹かれた出来事があったら教えてもらえますか?

 

「りんご娘のマネージメントをされている樋川さんの存在が大きかったですね。
 もともとは別に仕事をもたれていて、合間に芸能事務所(リンゴミュージック)を奥さんと二人でやられているんですよね。『今度、こういうのがあるから一緒にどうです?』とイベントに誘ってもらったんです。それで帰ろうとすると、『次はいついらっしゃるんですか?』と聞かれる。
『また来てくださいね』という、よくある社交辞令の言葉が、本当にそう思っているのだというのが伝わってきた。『待っているからね』という一言に自分が求められているというのがわかって『また行きたいな』と思ったんです」


 樋川さんから「こういうイベントをやるから協力してください」「劇団をつくろうと思っているので、脚本を書いてください」と要望されはしたものの、ナカタさんは、学生時代にバンドサークルにいたことはあっても、友人に演劇関係者もおらず、舞台など観に行ったことなどない。
「やったことはないけど、やろうか」と心が弾んだのは、地方とはいえ10年以上も、ひとを育てる活動をしていた人物が、「してみませんか」と声をかけてくるのだから、「何か自分にもやれることはあるかもしれない」と思ったからだった。


「僕の性格として、求められていないところに出かけていくのはコワイ。ありがた迷惑になるんじゃないかって弱気になるんです。
 だけど、期待されているのがわかると、この人たちのために何かしたいと思う。そういうのを繰り返していたら、去年は月イチペースで往復していたんですよ」

 


「劇団RINGOAME」の稽古から公演にいたるでの記録がwebにアップされている。
 舞台の評価はひとまずおいておく。写真や映像から、経験のない未知のことに挑戦する青森の少女たちの真剣さや飴マンの熱も伝わってくる。
 当時、ナカタさんは休日のたび深夜バスを利用して往復していたという。

 

「財布はつらかったですが、楽しかったですね。行くことが日頃のモチベーションにもなっていました」

 

 あえて言葉を裏返せば、ナカタさんは東京の職場では日々「自分じゃないといけない」実感を持てずにいたのだろう。スペアならいくらでもいる。誰かがある日、自分の椅子に座っていてもおかしくない。だから、休みたくても休めない……。
 虚無感というのかなぁ。それはナカタさんだけが感じるものではないだろう。

 

  ☟「りんご娘」ときさん、王林さん、と

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── 今夏に高円寺のライブハウスで「移住報告会」がありましたよね。ゲストで参加しておられた「トマト人間」さんが、飴マンさんとの初対面の印象を語られていた。「ぐれキャラ(「ゆるキャラ」のアンチ的な存在)」の会合があり、飴マンさんがリーダーシップをとって準備した会合であるにもかかわらず、当日は「誰とも目を合わさないので、絡みづらいひとだなあ」と思ったという。
 話しているトマトさん自身が、そんなにコミュニケーション上手なひとには見えなくて。だからこそ彼女は、ナカタさんのネガティブなところに目がいったのかもしれないですが、人見知りだったりします?

「目を合わさないというのは、実際そうだったと思います。子供の頃から、めちゃくちゃ人見知りで、初対面の人と目を合わすなんてキビシしい。いまでも社交性もゼロに近いですから」

── でも、飴マンだと社交的になれる?

「そうですね……」

── 前職は営業ですよね。

「仕事であればいけるんですよ。割り切れるんです。
   でも、休日は人と会わずに過ごしたい。時間を共有することの不安というか、このひとは、俺と一緒にいて面白いんだろうかというふうに考えてしまうんですよ」

── 先回りして気をつかい、疲れてしまう?

「気疲れよりも、申し訳ない、というほうですね」

── だけど不思議なのは、りんご飴マンは目立ちますよね。それは気にならない?

「顔が出ていてどうしょう、という意識はなかったですね。
 ……ああ、そうそう。言い出しっぺが、カウンターにブルーマンみたいに、顔を真っ赤にした蝶ネクタイのバーテンが三人いて、『(りんご飴を)アチラのお客様からです』とか口を揃えて言ったら面白いんじゃない。それいいね、と盛り上がったんですよね」

 

 試しにやってみたら予想を超える反響があり、「その姿で今度どこそこに、りんご飴を売りに来てよ、と言われたりするようになったんです」という。

 それにしてもヘンシンに要する時間は、およそ5分。製作コスト面からみても、お手軽だし、インスタント感は否めないのだが、そこが親しみやすさにプラスしているのは、ナカタさん本来のキャラクターによるところが大きいのかもしれない。

 

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  ☝トマト人間さん と高円寺商店街で

 

 全国各地で次々と、ご当地キャラ、ローカル・ヒーローが続々と誕生する昨今。「見られたい」「注目されたい」という自己PRは、彼らが欲する最大公約数はこの一点に尽きるだろう。けれどもナカタさんは、淡々とこういうのだ。

「このキャラが、売れても売れなくても、

僕はどっちでもいいんです」


☟次回に続く
 


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 ☟ 劇団の立ち上げに、りんご飴マンが参加したときのレポート

 

 

 ☟ りんごの町発の短編映画 『りんごのうかの少女』(横浜聡子監督)
  【­出演】とき(りんご娘)、永瀬正敏(友情出演)、
  工藤夕貴(友情出演)【企画・製作】­弘前市、RINGOMUSIC (2013年)

 

 

 

 

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