わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

縁は、地下鉄内の“女子高生の刀アクション”から

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わにわにinterview「ウラカタ伝4 」漫画家・黒丸さん

スタントマンに憬れを抱く少年の成長物語、『UNDERGROUN’DOGS アンダーグラウン・ドッグス』の漫画家・黒丸さんに聞きました。【2/4】  

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インタビュー・文=朝山実
  写真撮影©山本倫

 

☟はじめから読み直す

  

黒丸さんが、スタントマンの世界を漫画に描きたいと思ったのは、どうしてなのか?

 

── 大ヒットした『クロサギ』という詐欺の漫画の次に選ばれたのが、スタントマンの世界を描いた『UNDERGROUN'DOGS アンダーグラウン・ドッグス』。スキマ職業ともいえるスタントマンに興味をもたれたきっかけから、お話いただけますか。

黒丸(以下、同) 十年も「立ち話漫画」(※前回参照)を描いていると、それなりに絵については上達もし、『クロサギ』という作品においては描きづらいものがなくなってきたんですよね。だから、それまで自信がなかったアクションのあるものを描きたい、とつよく思うようになっていたんです。もともと好きな映画がクライムサスペンスやアクションだったのと同時に、苦手にしていたものを克服したい。
 もうひとつには「お仕事もの」が好きというのもあって、最初に考えていたのが時代劇の殺陣だったんです。だけど、『デラシネマ』(星野泰視・作)という、日本のチャンバラ映画の全盛期を描いた漫画がすでにあったので、重ならないように現代のものでと題材を探していた。わたし自身は、時代劇も好きではあるんですが、時代劇じたいが作られなくなっていたこともあり、漫画にするには難しいなという思いもありました。

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 そういうことを考えていたときに、『GANTZ 2』(原作・奥浩哉/佐藤信介監督/二宮和也松山ケンイチ主演)の映画を見たんです。地下鉄の車輌の中で、セーラー服の女子高生が刀を振り回すシーンがあって、「ええー、なんてカッコいいんだろう」。日本でもこういうことをやれるのか。これはスタントの人の吹き替えだろうな。どういう人がやっているのか気になっていた。そのあと、『バイオハザードⅤ』のアクションを見たんです。この動き、もしかしたら「あのガンツの人かもしれないぞ‼」と思ったんです。


── それがスタントマンの日野由佳さんだったということですか(※日刊SPA!過去記事)。

 そうです。「やはり、そうか」と思ったのは、アクション監督の谷垣健治さんが出演した『マツコの知らない世界』というテレビを見ていたときで、日本の女性スタントマンとして日野さんや『GANTZ 』のことも紹介されていたんです。
 
話が長くなるので、ここで一回整理しますね。

── はい。お願いします。


 アクションシーンを独立させて描けばいいというアイデアと、日野さんという女性スタントマンの存在を知ったという。この二つは、その時点ではまだつながっていなかったんですが、同時期に「これを観ておいてほうがいいよ」とすすめられた映画が、スタントマンの人たちが自分たちの好きなアクションをやるために作った『BUSHIDO MAN ブシドーマン』(辻本貴則監督/虎牙光輝・主演)という映画。これが低予算を逆手にとった面白い映画なんですよ。
 観終わって気持ちよくなって帰ろうとしたら、トークショーがあって、そこで主演の人が「僕ね、客席にいるあの彼女と競演したことがあるんですけど」と指さしたのが、わたしの前に座っていた人で、その女性が帰り道、前を歩いていたので、いまここで声をかけないと後悔すると思って、
「わたくし、こういうものですが。さっき、いましたよね。女優さんですか?」と聞いたら、「いえ、わたし、スタントマンです」って。名刺を渡したら、ダンナさんが漫画が好きで、わたしのことを知っていたみたいで後日メールが来たんですよ。

 その女性は坂井香里さんというんですけど、女優さんからスタントマンに転向した、ちょっと変わった経歴の人で。その坂井さんに「A-TRIBE」という、いつも練習させてもらっているチームがあって、「そこに日本で一番の女性スタントマンがいるんだけどね」と教えてもらったのが日野さんで、いまにいたるなんです。


── そうかぁ。作品がかたちになっていくまでには、いろいろあるんですね。

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── 黒丸さんのことを面白いと思うのは、知らない世界を描くにあたって、ご自分で取材をされていますよね。漫画家さんというとインドアなイメージがあって。偏見かもしれないですが、いろいろ人に会って取材をされるというのが意外でした。

クロサギ』のときにも、キャラクターの元になるような人に何人か会わせてもらったんです。でも、相手が凄すぎて、もう何を聞いていいか。雰囲気を見て参考にする程度。遠くから、身を縮めて眺めていただけ。
 もちろん恐いことをされたりしないんですよ。むしろ親切なんです、そういうひとたちは。わたしがカチコチになっていると、笑顔でご飯をよそってくださったりする。
 ただ、ちらっと見た、もう目の瞳が真っ黒で、それがまた恐いんです(笑)。


── 瞳が?

 威圧感バリバリなんです(笑)。
 帰ったら身体はガチガチ。筋肉痛になっていましたよ。そのぶん、しっかり恐いオヤジのモデルにさせていただきましたけど。
 でも、それは取材というよりも参考程度で。聞きたいことを聞き出したとかいうんじゃなかった。
 だから
スタントマンを選んだのは、自分の力で取材をしたい。できるようになりたい、というのがあったんです。それも本当に興味のあるものでないと続かないと思ったので、そういうものを探していたんです。


── それだけ「取材」に強い意識をもたれるのはどうしてなんですか?

クロサギ』みたいな作品を描いていると、「どういうふうにして描かれているんですか?」「取材は?」と訊かれることが多くて。
 実際は、原作者の夏原(武)先生に取材はぜんぶお任せで。ここからここまでは描いていいけど「ここからは危ない」という見極めも夏原先生に頼りっきりでしたし、なまじ、ああいう作品をやっているのに、自分は何も取材しないという負い目がありました。情けないなぁって。


── ひとり立ちしたいというような?

 というよりも、できるようにならないと、ということかなぁ。
 夏原先生はこちらを尊重して下さって、だからこそもっと作家として、ちゃんとしたい。そのほうが正確かもしれない。自由になりたい、じゃなくて、一人でやれるようにならないとこの先やっていけないぞ、という切迫感ですかね。

── だけど、とくに取材をしないで描く創作ジャンルもありますよね。

 それはイマジネーションが発達している、奇想天外な発想ができる人ですよね。それに、わたしは異業種の人の話を聞いているときにもえるんですよ。

── 萌えるんですか。

 そうです。いろいろ考えていくとわたしは、現実とは違う世界を描くというのは合っていないのかなぁ、と。

 

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 昔は、ファンタジー漫画を目指していたんですけどね。好き勝手ができるからいいなぁって。でも反面、ファンジーの世界は自分で、その世界のルールをすべてイチから作っていかないといけない。この世界はこうなっていて、ココとココは対立していて、とか。この武器はこれに勝つけれど……といったルールを守りながら物語をつくる。
 これが自由なようで、(逆に自分で決めた)ルールに縛られすぎてキャラクター落ちしたりすることもあって難しいんです。

 じつは、わたしが少年誌をやめて、青年誌に移ったのはそういう理由もあったんです。限界を感じたりしていたときに異業種の人の話を聞くと、自分の想像力を超えていて、わたしが発想するものよりも実世界のほうが面白いんですよ。


── そこから職業ものとしてスタントマンが浮上してきたということですか。

 そうですね。スタントって、もうカッコいいんですよ!

── 女性で、スタントマンに興味をもつのはめずらしくないですか。

 かもしれませんね。連載を始めた頃は「スタントマン」という名称を知らない人も多かったですし、知ってはいても実像とはちがう。なので、編集さんにスタントの世界を描きたいと言ったときに、まず説明するのが難しかったですね。「火だるまになるんですか?」と聞かれ、うーん、それもあるけれど……というところからでしたから。

── どうやって編集者を口説かれていったんですか?

クロサギ』を十年やった実績を評価してもらったというのと、スタントの人たちの取材をして知った話を嬉々として話していたら、編集さんも乗ってくれて。担当さんにも練習のところに一緒についてきてもらって、見てもらったりしたんです。
 それが「A-TRIBE」フリーランスのスタントマンのチーム)の大内(貴仁)さんたちで、練習後にはお酒とか飲んだりして。そうすると彼らの現場の話とかがまた面白くて、編集さんまで魅了されちゃうんですよね。あの人たちのイカレっぷりに(笑)。

── アクションに没頭している、ふだん見かけない人たちですものね。

 だから編集さんには、「もう取材の場には来ないで」と言ったんです。取材でこれからベッタリになるかもしれない。わたしが暴走したときには、外にいて冷静な判断をしてもらわないと困るからって。
 だからスタートできたのは、スタントの人たちに実際会ったというのは大きかったかもしれないですね。

── そこまで黒丸さんがハマリこんだスタントマンの世界の面白さって、なんですか?

 うーん、いろいろですよねぇ。

── ネットを見ているとアクション好きのコアな人たちは、映画とかを見ていても見るポイントがちがうんですよね。「声優ファン」に近いというか、表の俳優さんじゃなくて、誰がこのスタントをやっていて、どれぐらい頑張っているかに熱が入るのが面白い。

 たしかに(笑)。作品をアクション監督で見るとか。よくそこまでわかるんだという人がいますよね。
 知り合いの女性作家さんに、アクション監督の谷垣さんのファンの人がいまして、その方の情熱は、わたしの300倍くらいはあると思います。アクションのファンの人たちって、本当に情熱的なんですよ。これは尊敬の意味で言うんですけど、アクションに関してはもう、マッド。愛を感じますね。

── 愛ですか。


 愛ですよ、愛。そういうマニアの人たちがいる一方で「このシーンはこのスタントマンがやっている」という情報は、日本ではなかなかオープンにされない。アクション監督は誰それというのはプレスに出たりするんですけど、個々のスタントマンがどのシーンを担当しているか。とくに「スタントダブル」(俳優の代役を演じるスタントマンのこと。「吹き替え」ともいう)の場面は、口外しないのが不文律になっているのでマニアでもわからない。

── ハリウッドではスタントマンの存在を隠さずオープンにしていたのりるのに、日本は「吹き替え」とかいって、存在そのものを隠したがる傾向があるんですよね。

 顔が映らないのが前提だから、絶対わからないんですよね。


── しかし、そういうふうに自身の存在は知られることがない、影武者のような仕事に情熱を注ぎ込んでいる。そこがスタントマンという職業の面白さかもしれない。
 最近見たものだと、深夜の時間帯のドラマでEXILEの人たちが出ているテレビ番組がありましたよね。

『HiGH&LOW』ですよね。

── すごいアクションシーンの連続で、ワタシ、眠いのに頑張って起きて見ていました。

 録画しておけばいいのに。

── ウチ、録画するのがないんですよ。

 えっ!? お仕事柄、見ないといけないものもあるでしょうに。


── そういうときはリアルタイムで(笑)。

 もう買ったほうがいいですよ。1万円くらいで買えますよ。


── ですね(笑)。あの番組のアクションシーン、すごいですよね。ワンカットで何十人もの人間が乱闘しているシーンを、ぐるりと撮影したりしていたでしょう。

 ワンカットでしたよね。あちこちで乱戦が繰り広げられている中を撮っていくとき、手持ちのカメラがクルージングするように分けいっていくんですよね。
 これは、あの番組の現場がということではないですが、撮影の仕方も、たとえばワイヤーを使って空中にカメラマンを吊り下げて撮ったり、何十人もが乱闘している中を走り回って撮るというときにはアクション部のスタッフ(スタントマン)がカメラを回すということあるそうなんです。
 あっちでもこっちでも同時に乱闘していたりすると、その中をカメラが進んでいくのは、危険なんですよね。段取りが全部わかっていないと。


── それはカメラを扱える人に限られるんでしょうけど、たとえば大内さんのようなアクション監督自身が撮っていたりするんでしょうか?

 わたしは、現場を見ていないのでわかりませんが、場合によっては大内さんや別の方が撮られていたりするかもしれないですよね。いずれにしても、スタントのことと同時にカメラのことがわかっていないといけないから、限られているでしょうけど。
 でも、スタントマンの中には、専用の撮影機材やアクションに必要なワイヤー機材を自前で揃えている人もいて、そういう方が現場で撮影をアシストする仕事にまわるというのも少なくないみたいですね。


── ということは、スタントマンがキャリアを積むなかで、スタッフとしての仕事をするという将来ビジョンもあるわけか。

 アクション部は、他のスタッフ部門、たとえば撮影や美術、小道具などいろんな部署とゆるやかに仕事の範囲が重なっていて、「こういうアクションが作りたい」というイメージの実現には他の部署との連携や細かな調整が欠かせない。それでも限界があって、じっとしていられず「もう自分たちでやっちゃおうか」という思いになるのかもしれないですね。
 それに、わたしが知っている実際アクション部の人たちって、カメラワークなんかもびっくりするくらい上手いんですよ。というのも、本番の撮影前にⅤコン(ビデオコンテ)なんかも自分たちで撮ったり、編集したりするというのを続けてきているから慣れたものらしいんです。そればかりか、ちょっとした大工仕事もやってしまう(笑)。


── 日本のアクション業界はまだ過渡期で、現場によってはチャレンジできる可能性があるということなんですかね。

 そういうこともあるかとは思います。大内さんのインタビューを(※ウラカタ伝の過去記事)読ませてもらってしみじみ思いましたけど、アクションに携わる人たちって、本当に開拓者精神というか、チャレンジ精神がたくましいんですよね。そういうのも、わたしがスタントマンという仕事に惹かれた理由だと思います。


── いまはまだ目立たない仕事だけど、将来、いまの声優さんたち以上にスタントマンが注目されていく要素はあるんじゃないかなぁと思いますね。
 それでは、肝心のスタントマンにスポットライトをあてた『UNDERGROUN'DOGS アンダーグラウン・ドッグス』の話にいきましょうか。

  

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☟次回へつづく


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UNDERGROUN’DOGS 3 (ビッグコミックス)

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