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わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

アイホンを風呂場にも持っていく、葬儀屋さんのハナシ

 【わにわにinterview ウラカタ伝・番外編】

アンチな葬儀屋さん

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文責=朝山実

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 父が亡くなったとき、お坊さんとトラブルになったことを拙著『父の戒名をつけてみました』に書いたが、その本のなかに登場する霊柩車の運転手さんとは、どういうかげんだか、その後もつきあいが続いている。その日、イチゲンで担当していただいただけだったのだが。
 ワタシの父は、物に対する執着が薄く、使わないものはボンボン捨てるひとだった。デパートの包装紙をきれいに折りたたみ、空箱などももちろん納戸に仕舞い込む母と口喧嘩をしては、庭でそれらを焼却する光景を子供のころによく目にしていた。だから、父のことは嫌いだったし、いまでも空箱をため込むクセがワタシにはある。
 亡くなったときにも、父には生活に欠かせない日用品以外、いわゆる形見の品みたなものは無きに等しかった。そんな父ではあるが、遺してくれたものはひとの縁で、墓参を兼ねた帰郷の際に、たまに運転手さんと会う関係が数年続いている。そんな彼にシゴトの話を聞いてみた。そういえば弔いの仕事ってオモテに出たりしない職業なんだよなぁと。

 


「眠れないんですよ」
 Mさんは40代前半。細身ながらがっしりとした体格で、楽天イーグルスの嶋捕手に似ている。「ほんとうはツルツルにしたいんですけどね」と我慢して五分刈りにしている。現状でもパッと見、コワモテだ。

 インタビュー場所は、ほかに客のいない焼肉屋だ。
 夜の9時。三軒続きで定休日だったり駐車場が満車だったりで、ようやく入ったロードサイドの店舗だった。
 不眠の理由をたずねると、手にしていた箸を置き、
「コレなんですよ」とアイホンを取り出した。
 風呂に入るときでさえも、常時すぐに手に取れる場所に置いているのだという。

 嶋さん(仮にそうしておきます)の仕事は、葬儀屋さんだ。霊柩車の運転手を経て、3年前に仲間と二人で葬儀社を設立した。現在、社員は社長の彼を含め7人。小さな規模の「家族葬」を中心に関西圏で仕事をしている。
 一台一千万円もする霊柩車(黒の高級車で、飾り物はついていないモダンタイプ)を二台もっているのが嶋さんの自慢で、先月には小さいながらも4軒目の家族葬専用の自前の会館をオープンさせている。
 全員が正社員となると月々の給与の支払いや、運営資金のやり繰りを考えると「悩み」は多いという。それだけではない。昼夜を問わない顧客からの相談対応が、不眠の原因らしい。

「ネットとかで“24時間対応”をうたっているので、夜にかかってくるのは仕方ないんですが、三時とか四時とかに電話がかかってくるとねぇ……

 ひとはいつ亡くなるかわからない。明け方が多かったりするし、家族にしたら「まず電話しなければ」と考えるのが葬儀屋探しだ。父のときがそうだった。
 嶋さんは、就寝の際にも枕元にフリーダイヤル専用の会社のスマートホンを置いている。眠りに入ったと思ったら、電話の音で起こされる。自然と眠りが浅くなる。
 緊急を要する電話ばかりでない。「昼間に電話してくれたらいいのに」というものもある。だからといって、そう言えるものではない。口ぶり態度に出してもいけない。仕事の基本だと嶋さんはいう。

「もうずっとそういう状態で、ウトウトすることはあっても、しっかり寝てないんですよ」

 まだ夜9時だというのに、がらんとした焼肉屋。インタビュー中にもテーブルに置いたスマートホンの着信音が。
「はい、○○です」
 嶋さん、すぐさまスマートホンを耳にあてていた。
 さきほどまでのぼやき混じりのやわらいだ表情ではなく、仕事の顔になっている。

「はい、……ます」
「はい、……です」

 語尾も丁寧な応対は、すがすがしい。葬儀のプランについての問い合わせらしい。
 嶋さんは顔に似合わず下戸で、ふだんの会話でも敬語を欠かさないが、仕事の電話はさらに丁寧なものだった。7、8分ほど話し、そっと電話を切った。

「わかってもらえました?」と嶋さんが笑う。
 店内に他に客はいないし、かかっているのは静かな音楽だったが、これがザワザワした、笑い声や嬌声が聞こえでくるような場所だったりすると、さすがに具合が悪いだろうと尋ねると、
「そういうときは、電話を持ってすぐに外に飛び出します。猛ダッシュです。でも、いまくらいの時間は早いほうで、ほんと時間関係ナシですから」

 嶋さんのほかに、社員は6人いるのだから、当番制にすることはできないのか。
「そうなんですよね。ボクも、そうしたいと思っているんですけどねぇ……」

 任せるということが、ジブンは上手ではない。はっきり言って苦手。上に立つものとしての自身の欠点だという。

「こんなんしていたら、ホント長生きできないですよ。ヨメとかも、めちゃ不機嫌になるし

 奥さんは、葬儀関係の同業者で、それゆえ彼の仕事についての理解はしているものの、電話一本で前々からの約束がつぶれてしまうのが続くと、「理解はしてくれているものの、険悪です」と苦笑う。
 それじゃあ大変ですよね、と相槌をうつ。

「だから、ぐっすり寝られるのは会社のソファで仮眠しているときなんですよ」
 それは?
「とりあえず事務所だと、電話が鳴ったら起こしてくれるんで」
 起こしてくれると思えば安心して、ぐっすり眠れるという。それだとなおのこと交替制にするのが合理的じゃないのかとツッコミを入れていた。
「そうなんですけどねぇ」
 うーんと嶋さんが、うなる。
 ちょっとした言葉の行き違いで、相手の心象を害しかねない。とくに電話だと相手の顔が見えないだけに、いつも以上に気をつかわねばならない。「クチコミが大きな影響力をもつ」業種だけに、考えすぎて慎重になってしまう。
「それに、同じ大変さをひとに押し付けるのも」と、もごもご。

 

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葬儀業界はいま改変期にある。
今後10年は「団塊の世代」の需要で仕事じたいは増加傾向にある。しかしながら、他業者からの参入や、大手から独立組など葬儀社も増加し、このご時世もあって価格競争で激しくシノギを削っている。前職は霊柩車の運転手だった嶋さん。会社を起こしてまだ三年だが、ある日、社員を集め「会社の将来」を決めるにあたって訊ねたことがあった。

「うちは株式会社で、規模は小さいですけど、全員が正社員。パートやバイトが多い業界では、変わっているというか、珍しいほうだと思います。
 社会保険とかも完備していますが、名の通った大手の葬儀社と比べると、はっきり言って、給料は少ない。でも、システム的な仕事はしたくないんですよね。だって、一人ひとり人間がちがうように、昨日やったのと同じ葬儀なんてない。
 それで、社員みんなに訊いたんですよ。給料が少なくても、毎日の仕事にやりがいを感じられるのがいいか。そんなことより、給料が一杯もらえる会社がいいか。どっちがいいか。意見を聞かせてほしいって」

 そこで嶋さんは言葉を切った。

「なんか、いい子ぶっているようで恥ずかしいんですけどね」

 霊柩車の会社時代の相棒である5歳下の副社長をはじめ、六人の答えは同じだった。

「嬉しかったですよ」
 社員の大半は、他業種からの転職者だ。採用は嶋さんが個人面談をして決めてきた。やりがいを選んでくれるという期待とともに、ちがう答えが出た場合のことも考えてはいた。
「そのときは仕方ないんで、もうひとつ、新たに利益優先の会社を別につくるしかないかなぁと思っていたんです」

 秘密の計画を打ち明けるような笑い顔だった。虚心のない。

 しかし、同じ業種で、目指す方向が異なる会社を同時に回していくなんて現実的ではない。なにより嶋さんの性分には合っていないだろうと訊ねてみた。

「そうなんですよね。仮に始められても、長続きするかどうか」

 嶋さんと知り合ったのは、5年前に父がなくなったときのことだ。
 黒塗りの霊柩車を運転していたのが嶋さんで、喪主として右側の助手席に位牌を手にしたワタシが座り、火葬場までの30分ほどの道中、父との思い出を話し、彼が以前トラックの運転手をしていたときのことなどを聞いた。背筋の通った姿勢と白い手袋と、ホテルマンのような口調が印象に残っている。

 生前、父と親族との折り合い悪かったこともあり、ワタシも葬儀の最中は気持ちが張り詰めていたのだろう。不思議なことに火葬場に向かう霊柩車の中は、ふわっとリラックスできた。
 喪主の挨拶が嗚咽まじりで、うまくしゃべれなかったと言うと、
「後ろのほうで見せていただいていましたが、いい挨拶だったと思います。心がこもっていて」
 ハンドルを握った嶋さんは、顔を前方に向けたままだ。

 お葬式の場では、霊柩車の運転手は出棺まで駐車場で待機する。
「ひとによって様々ですけど」
 手持ち無沙汰な時間を嶋さんは、ときおりスタッフの手伝いなどしながら進行を見つめていたりすることが多いという。
 父の葬儀を体験するまで、正直なところ、葬儀屋さんに対して好いイメージはなかったのだが、嶋さんと出会ったことでワタシの考えもすこしずつ変わりつつある。

つづく☟
お化けが怖くてトイレに行けなかった、葬儀屋さんのハナシ - わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)