わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

こまったら、こまむらさんの大反省

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【わにわにinterviewウラカタ伝⑦】
「こまったら、こまむら」
ITプログラマー出身、調査から鳶職までこなす便利屋・駒村佳和さん【2/4】

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インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫 


「便利屋」という仕事は知っていても、実際どういう人がやっているのか。たまたまTBSラジオ久米宏さんの番組に駒村さんがゲストとして出演していたのを聴いていたら、「こまったら、こまむら。」というキャッチフレーズに愛嬌があった。便利屋さんの前は建築現場の足場の仕事、さらにその前はITのプログラマーだったというのが興味を惹いて、一度会いたいと思ったのだった。

前回を読む☞「こまったら、こまむら。」のヒミツ基地を覗いてみた。

 

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── もともと理系の人が、どうして転職の際にガテンな仕事を選択されたのか。意外というか。駒村さんの話し口調はとても穏やかだし、ガテンっぽさがうすいというか。

「自分ではそんなに変わっていると思わないんですが。もともとこういう職業に就かねば、といったこだわりが、そのとき、そのとき無いままにきたんですよね。そこは近い人からすると、心配させてきたところでもあるんですが」

── 話されている感じから、駒村さんには、この人にだったら頼んでみたいかなと思わせるところがありますよね。不思議と。ラジオの久米さんも楽しそうに足場のことを根掘り葉掘り聞いておられたし。そうそう。ふだんの仕事の依頼はどういうふうに受けておられるんですか?

「お電話ですね」

── ツイッターはやられているけど、ホームページなどは作られていないんですよね。依頼されるお客さんたちは、どこでこまむらさんの電話番号を知るんですか?

「たとえば『おかーさんから聞いたんだけど……』という出だしが90㌫ですよね。おかーさんは、その方のお母さんではなくて、お世話になっているアネゴ肌の女性のことだったりするんですけど」

── 信頼できる人のクチコミということですか。よくある電話帳とかに広告を載せるというようなことは?

「電話が得意じゃないんですよ。かかってくると、びくっとするので(笑)」

── それじゃどこにも広告とか載せてないんですか。

「直接お会いしたときに、名刺をお渡しして、それを取っておいてくださった人から電話をいただくというのがほとんどですね」

── では、営業の道具は名刺だけで?

「はい」

 

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── 仕事が軌道に乗るようになったのはいつぐらいからですか?

「2、3年くらいしたときにリピートで呼んでくださる人が出てくるようになって。そういうお客さんは、いろいろ人を知っているひとでもあって、そのようなリピーターさんが30人くらいついたときに、これは仕事として成り立つなと思えたきたんですね」

── 30人の目安は?

「大まかなイメージです(笑)」

── とりあえず30人ということですか。

「そうですね」

── あの「便」の一文字を使ったロゴは?

「あれは最初のころからのマークで、五角形のかたち(文字を囲んでいる、前回に写真掲載)をしているのは、心を鍛えたい、身体を鍛えたいという。自分なりの、それぞれの角に広げたい五つの目標がありまして、バランスよく拡げていきたいという意味があります」

── 自分でデザインされたんですか。

「はい。Windowsのペイントを使って作りました」

── シンプルだけど、駒村さんの人柄が伝わって。この仕事はいくらいくらという料金表も大事だけど、どういう人がやって来るんだろうという安心感の目安になりますね。

「ああ、ありがとうございます」

 

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── 倉庫の、この奥にあるのは真空管

「はい。ああ、これは廃品だったもので、ちょっと部品を見たいと思ったものですから」

── こちらは?

「鉄パイプを切る道具ですね。高速で丸い部分が回って切るんです。数秒で切れます。これも、大工さんにいただきました。もう廃業するというタイミングで片付けを依頼さたときにもらったものです」

── この太陽の塔が見えているのは"大阪万博"の本?

「そうです。仕事で片付けをしたときのものですが、わたし自身が捨てられなくて…」

── それでつい取っておくというのは、なんかおかしいですね(笑)。それに拝見していると、収納上手で。ポイントは?

「用途ごとに仕舞うということですかね」

── 使い終わったらすぐもとに戻す?

「いえ、ふだんはちょっと使って、空いているところに適当に置いてしまう。よく、あとで、と思っているうちに別のことに取り掛かって忘れたりします(笑)」

── 探して見つからないことは?

「あります。そのときのために同じもの、予備をもう一つ持つんですよね」


── このジュラルミンの大きなケースは? なかを開けると、あっ、頑丈な車輪が出てきましたね。

「現場で、組んだ足場を動かすときに、これの車輪を下に据え付けるんです。キャスターと呼んでいるんですが、一個が20キロくらいあって運ぶのが重いんですよ。持ってみます?」

── ああー、ズシンときますね。

「ですから、まとめてケースに入れて、コロコロと動かしているんです」


 駒村さんの説明によると、ここの倉庫に置いてあるのは「大物」の機材が中心で、ふだんよく使う「レギュラーメンバー」と呼んでいる清掃のホウキなどの類は、自宅近くの倉庫に置いてあるという。しかし秘密基地のようで、出てくる、出てくる、使い込んだ竹刀もあった。持ち手のところに名前が付いている。



「剣道部の先生が大会の前に、ひとりひとりの竹刀に名前をつけてくださいまして、ほかのみんなは『聖剣』とか『気剣』『正剣』だったのが、わたしには『妙剣』だったんですよね」

──「妙剣」の由来は?

「なぜですかね。気を衒うところがあったのか。漢和辞典で調べると『優れている』という意味もあるというので、そう思って大会にのぞみました(笑)」

 

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 駒村さんが仕事に使っている愛車のライトエースとのつきあいは長いらしく、かなりの距離を走行している。先日も福島の会社の社員寮のお風呂に絵を描くので出かけてきたばかりだという。

「便利屋としては都内と埼玉、神奈川くらいまでが範囲ですが、過去いちばんの遠方は山形県の北。わたしの地元が山形で、お客さんが手に入れたミシンを配送するのにヤマトさんまで梱包して運びたいという人がいて、『どうしたらいいかわからない』と。帰省するタイミングでいいからとおっしゃられたので」

── そのひとは、どうして駒村さんを?

「友人の奥様の知り合いということでした」

── ちなみに料金体系は?

「クルマを使わない場合は、1時間2500円。1日だと16000円。たいていクルマを使いますので、そこに諸経費が加わります。実際には半日、1日と、ある程度まとまった段階でのご依頼が多いです」

── 植木屋さんの料金体系に近いかもしれないですね。何を目安に?

「便利屋として継続していける金額ですね。自分なりに考えた適正価格というか。価格交渉は、ほとんどないですね」

── 見積もりとかは?

「ご希望に応じて提案していますが、途中で材料の追加が必要になった場合にも柔軟に対応できるように心がけていますし、『きょうは早めに終わりましたので、これで』とキリのいい金額にさせていただいたりですね」

── 多めに伝えていたほうが、すこしお得感が出る?

「多めというよりは、作業中に不必要と判断した項目を削ったりして、見積もりより低くなるケースもあります。そのほうが嬉しいかなぁと」

── 個人と会社の比率は?

「半分半分くらいですかね」

── 体力に自信あり?

「あります」

 

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── いまの仕事があっておられそうだといのはわかりますが、でも、駒村さんはどうしてITの会社をやめられたんですか? 繰り返しになりますが。

「やめたのは、若干アタマが疲れたというのはありましたね。人間関係は、いい上司にめぐまれたのでよかったんですが。それに、そんなに大きな変化だとは思っていないんですよね、自分では。仕事をやめたら次の仕事をしないとけない。それで、たまたま足場に(笑)」

 

── たまたまなんですか、本当に?

 

「ああ、はい(笑)」

 

 話を聞いていくうち、意外にもこの連載インタビューで既出の"りんご飴マン"さんのことを知っているという。「『ボクナリスト』というサイトでインタビューしていただいた藤代(雄一朗※「水曜日のカンパネラ」のMVなど制作)さんの紹介もありましたし、高円寺のイベントに出ておられたことがあったんですよね」と。
 りんご飴マンさんも広告代理店に就職したものの多忙すぎる職場との往復に「ちがう」と思い退職、生活の場所を東京から青森へと移した。顔を真っ赤にペイントしているが、話してみると礼儀ただしく堅実な青年である。


── 子供のときに何かなりたいと思ったものは?

「それが、なかったんですよ。幼稚園の先生が『将来なりたいもの』という紙をもってこられて、最後まで『わからない…』って下を向いて黙っていたら、先生が困って『じゃあ、歯医者さんはどう?』というので、『それでいいです』って(笑)。中学くらいになって、何か教える仕事がいいなとは思ったんですが。訊かれたら、歯医者さんがなりたい仕事になっていましたね」



 そんな駒村さんだが「将来やりたいこと」がひとつあるという。いつか仕事で出会った様々な体験を小説にする。「何か書きためています?」と尋ねると、「まだ何も」だそうだが。書いたりするのは嫌ではない。『季刊レポvol.18』という、ライターの北尾トロさんが主宰していた雑誌に依頼され便利屋について書いた記事を読ませてもらったが、読者が便利屋の何に面白さを感じるかのポイントを掴んだ端正な文章だった。文章センスもいい。しかも「数時間で書いた」というから、そこはやたら時間のかかるこちらとしては若干面白くないが(笑)。


 
「子供の頃によく読んだのは、シドニー・シェルダン。ほかには岩窟王とか、ロビンソン・クルーソーのようなものをよく読んでいました。屈しない心がカッコイイ、と思って読んでいた記憶があります」

── 最近だと何を読みました?

「つい先日、『父の戒名をつけてみました』という本を……」

── それはインタビューの予習のためにですか(笑)。

「面白かったです、というと失礼かもしれませんが、こういうのも大事だなと思いました」



 駒村さんがあげた戒名の本は、3年前に出した私的体験を綴ったワタシの拙著で、ちょっとドキリとした。一見のインタビュアーの本を、被取材者が事前に読んでいたということは仕事上そんなにあるものではない。新刊書でもないから、わざわざネットででも取り寄せていただいたのか。恐縮してしまった。飄々としていて駒村さんは慎重な性格らしい。

 

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── あんまりなさそうですが、仕事でお客さんを怒らしたことはありますか?

「あります。できると思ったことができなくて、お客さんが知り合いの職人さんを呼んで来られて、その方に追加で補強をしてもらったんです。わたしが『力及ばずで、助かりました』と言った瞬間、怒られましたね。お客さんから『そんな気持ちで来ないでほしい』と。
『できないこと以外はできます』というのを宣伝文句にしているんですが、できると思っていたのに、できないものを受けてしまったということもあるんですよ」

── そのときは?

「まずやり方を勉強して、これならできると思ったものは引き受けたりしていたんですが、うまくいかないこともあるんです。一日で終わらせるものが二日かかって。怒るところまではいかないまでも不満に思われることはあったと思います。『それだったら専門家に依頼してください』というのはナシですからね」

── さきほどのお客さんから怒られた際ですが、どう対処されたんですか?

「料金を戴かずに帰ろうとしたんです。『それだとあなたがあまりにも不憫だから、交通費と材料費は出しますが、あとはもう職人さんに頼みます』と言われました。お客さんの時間を奪ってしまったので、お金を戴かないことでようやく対等な関係にもどれるかなと思ったんですが。もうそれ以降、その方からは依頼はないですから、それが最後でした」

── 仕事をされて、どれくらいの時期ですか?

「三、四年経った頃ですかね。だいたいのことはできると思って、ちょっと調子に乗っていたのかもしれないです。でも、思い上がりに釘を刺されたのが、まだその頃でよかったなと思っています」



 隣で聞いていたカメラマンの山本さんが「わたしも、そういうことはありました。だれにでもあるんですね」という。もちろんワタシにも痛恨の失敗はある。これくらい準備しておけば大丈夫と思って臨んだ取材が、最初の打ち合わせでうまくいかず流れたこともあった。

 

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つづく☞便利屋「こまったら、こまむら」さんが困ることは? - わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)