「ウラカタ伝」

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

スタントマンについて知りたい。ⅴ

 

スタントマンから「アクション監督」となった、
大内貴仁さんに聞きました。【5/6】
 

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 わにわにinterview アクション監督って、どんなことをするの

あわや、
香港マフィアと…


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アクションで観客を魅了する、その姿は映るが、存在は隠されている。ある意味、影武者のような職業。大内さんたち「スタントマン」の本領だ。
前回までは、大学での「レスリング」や少年時代の「山村留学体験」などうかがいましたが、
「香港へ着いたぞ、ここからだぞ編」です。
 

 

大内 香港にも「タウンページ」みたいなものがあるんですよ。
 まずやったのが、「特技」がスタント、「電影」が映画で、それを見当にリストアップして、宿にいたバックパッカーとかに手伝ってもらいながら、「何かアクションの仕事はないか」って手当たりしだいに連絡する。
 いま考えたら、いきなりそういう電話を、映画製作の会社に電話かけてもって感じですが(笑)。
 電話口でだいたいの会社のひとは「はぁ……?? 何かあったら連絡します」というのがほとんどでしたね。その返答ごとに、×、○、△をつけていったんです。

 ○は、正直なかったかな(笑)。
 もうひとつやったことは、日本人向けのフリーペーパーに広告を載せたんです。
「スタントマンになるために日本から来ました。アクションも未経験で、まだ言葉もできません。何か情報をください」。
その記事を見たって、日本語の話せる香港人から連絡がきたんですよ。

── へぇー(笑)。

大内 ケビンというひとで、彼は映画とはまったく関係のない一般の人だったんですけど、ぼくの載せた記事を読んで、「無謀さも含めて、頑張ろうとしている君を応援したい」って言ってくれたんですよ。
 もうびっくりするくらい、まるで自分のことのようにいろんなことを調べてくれたりしました。「タカ、君のプロフィールを英語で作って、映画会社にFAXしたらどうか」って。広東語も教えてもらって、知り合いもできていったんですよ。

── 思わず世話を焼きたくなる何かを、当時の大内さんは漂わせていたんでしょうね。ケビンさんと出会うのは香港に滞在してどれぐらいの日ですか?

大内 香港は三ヶ月でビザが切れるんですが、その間にやれるだけのことはやって、後のことはそのあと考えようって思ってたんですが、だからそうだなぁ、ケビンにあったのは着いて一ヶ月以内だと思います。
 そういうのもあって、結局三ヶ月の間で何本かの映画に参加することができたんですよ。といっても、どれもエキストラに近いんですけどね。

── それでも、日本では何の経験もなかったのに、短期間で映画の現場と関わりを持てたというのは大きなことですよ。

大内 映画に限らずその間、宿に電話して人を集めてくるエージェント経由でね、CMのオーデションを受けたりもしていたんです。目指しているのはちがうんだけど、道はどこにつながっているかわからないと思いながら。
 そのエージェントのつながりで、たまたま日本人ヤクザの役の話がきたんですよ。もちろん台詞なんかないですよ(笑)。
 マフィアのボス同士が交渉している、その後ろのテーブルで数人が酒を飲んで盛り上がっている。ぼくは、その背景のひとり。ただ、そのテーブルを囲んでいる数人というのが、どう見てもホンモノなんですよ。役者やない。

── 本職のマフィアさんが、映画のエキストラをされているんですか?

大内 香港はそういうのがあるんですよ。「おっかないなぁ……でも、ここで何もしないでいるのもなぁ……」と思って、相手に絡んでいく小芝居をね、自分で勝手に組み立ててやるんですよ。
 もちろんお芝居なんかやったことないし、それまで観た映画のシーンとか思い出したりしながら。まだぜんぜん言葉もできてない、会話らしいことなんてもちろんできないんですけど。

── それで、ご本職の方とは?

大内 これがまた気まずいフンイキで(笑)。「でも、もうやるだけやってやれ」と。マフィアの持っているタバコを、「おい、一本くれや」と勝手に取って、吸うんですよ。

── いきなりですか。根性ありますね。

大内 言葉がわからないから(笑)。
 最初のうちは、まわりの様子を見て、いま「ああ、もっと声を出せ!」と言われているんやなとか、声の調子やジェスチャーで指示を読み取るんです。監督が「ダイディーア!」とパンチを出すしぐさをしていたら、「ダイディーアは、大きくという意味か」と覚えていく。通訳がいたら、そういうふうにはならなかったですよ(笑)。
 待ち合わせにしても、「あす何時、どこどこに集合」と言われるんだけど、聞き取れない。

── 不安には?

大内 不安ですよ。着いたら、誰もいない。まちがえたのかなぁとか。心細くて。しかも、香港はみんな平気で遅れるしね。
 あの頃は、少しずつ前進しながらも、でも、やっている実感はぜんぜんなくて……。あるとき、香港の俳優のティロンっていうひとと撮影現場で会うんですよ。
 いきなり「ティロン」て、アクションに関心ないとそれ誰?ですよね(笑)。

── はい、すみません。疎いんで。どういうひとですか?

大内 僕の中の「アクション映画ベスト1」はジャッキー・チェン酔拳2という映画なんですが、ティロンはその映画でジャッキーの父親役で出ていた。アクションファンだとすごいひとです。「うわっ、このひと知ってる‼」って興奮しました。
 というか、スタントマンになろうと思って香港に行ったんだけど、じつはジャッキーのほかに数人しか役者の名前を知らなくて。このとき初めて「オレ、香港の撮影現場でやってるんや!!」って実感が湧きましたね。

── 香港までスタントマンになりたくて乗り込んでいったんですよね。そう聞けば、相当に熱狂的なアクションフリークを想像しがちだけど、大内さんは、そういうのでもない。ギャップがいいですね。

大内 そうですか(笑)。


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大内 それで、もうビザが切れるというきに、運よくアクションのある現場に参加できることになったんです。紹介してくれたのは、これがもう大きなことを言うところがあるひとで、「彼は日本からきた優秀なスタントマンです」って適当にぼくのことを紹介して、「じゃあ、あとはよろしく」といなくなる。
 通訳がいるわけでもないから、「ちゃいますよ、ぼく、まだ素人です」と訂正しようとするんだけど、伝わらない。「もうやるしかない」って、まわりがやってるのをマネしながらやってましたね(笑)。

 殴られたら、リアクションして痛がる。その芝居も、何回もその場で怒られながら見よう見まねでね。

── 演技の経験もないのによくやれましたね。

大内 なんとか無難に終えることができたのは、日本でジャッキーの映画を繰り返し見ていて、シーンを覚えていた。それがあったからかもしれないですね。
 それでね、ぼくが女優さんにビール瓶でガツン!!と殴られるって場面があったんですよ。そのビール瓶がね、殴っても大丈夫なように飴ガラスでできている。そういうことも当時は知らなくて、目の前でカンカンと叩いて「柔らかいからね」と教えてはくれるんですが、その女優さん、振り返りもせずにいきなり後ろ手でケースの中から抜き出すので、「コレまちがえて掴んだら、アンタどうするねん」とハラハラしながらそのビンを見てました。
 
── スリリングですね、ハハハハ。
 
大内 そんなに笑うところですか(笑)。
 それが終わって、スタントで絡んだひとたちに「自分はこうこうで……」と何かあったら声をかけてくれと頼んでおいたんです。
 はじめて行った香港で、この撮影が一番貴重な時間でしたね。おそらく日本の養成学校とかに通っていたら、そこまでたどり着いてはいなかったと思うんです。
 道はまだはっきりしていないけど、三ヶ月で、アクションの現場に立つことはできた。それで、もう一回来ようと思った。
 だけど、自分であの時よくやったなぁと思うのは、タウン誌に記事を投稿したことかなぁ……。

── 要領のいい人間であれば「所詮こういうところに出しても意味ないよ」と何もせずに終わっていたんでしょうね。
 
大内 何もわかってないから。いまだとインターネットを使ってやったりするんでしょうけど、誰もがやるでしょう。それだと逆に注目されなかったと思うんです。泥臭いほうが、本気度合いが伝わることもありますしね。

── 大事なのは、する前にあきらめないというか、「固定概念」を取り払うことなんですね。

大内 そうかもしれませんね。スタントマンをやったこともないのに香港にやって来て、「素人に何ができる? できるわけないやろう」と言われたら、そうだし。「言葉もわからずに」と言われたらそうだし。でも、笑われるたび、「ヨシ。一年以内に、しゃべれるようになったるぞ!」と思いましたから。
 ぼくみたいな人間は、あのまま日本にいたのでは、世間一般の常識みたいなものに縛られすぎて、結局何もできないままだったかもしれません。「やっても無理かも……」と思ったら、始める前にぜんぶが無理に思えてきますから。
「こんな無謀なやつ見たことない」って、まわりに印象づけることができたのは結果的によかったんだと思います(笑)。
 それでじゃあ、その後も順調にいったかというと、何度も挫折しては復活を繰り返しているんですけどね。

 
 

取材・文責=朝山実
撮影=山本倫

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☟つづく

いよいよ次回は、最終回。
独自で道を切り開いてきた、アクションの仕事についてです。

 

📚 単身香港にアクション修行に渡ったといえば、こういう本も 

アクション映画バカ一代 (映画秘宝COLLECTION)

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【ウラカタ伝に登場してもらった人たち】

アクション監督が語る、「スタントマン」になるには☞大内貴仁さん

噂の「りんご飴マン」さんに会いに弘前へ☞りんご飴マンさん

島根で「福島」について考える「日直」歌手☞浜田真理子さん

スンタトマン」の世界を漫画にする☞黒丸さん

「自分史」づくりが面白いという☞中村智志さん

 情熱大陸」への偏愛漫画が話題の☞宮川サトシさん

「困ったら、コマムラ」の便利屋☞駒村佳和さん

見入ってしまうメオト写真を撮る☞キッチンミノルさん

タイで起業した写真家☞奥野安彦さん