「ウラカタ伝」

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

「答がわかっているものなんて、つまらんよ」

福島を忘れないスクールを遠く島根で続ける
シンガーソングライター・浜田真理子さんに聞きました。【2/6】 

 

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わにわにinterview③島根と福島のハナシ
 

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唄が本業の真理子さんが、
「日直」を始めたわけ(後篇)
インタビュー・文=朝山実
撮影©山本倫

   浜田真理子さんは、島根県松江市に暮らしている。2004年にTBS「情熱大陸」でとりあげられたのをはじめ、彼女の唄は数々の映画(たとえば『カナリア』サントラ盤の「銀色の道」など)やCM、テレビドラマの挿入歌に使われてきた。CDも『夜も昼も』(大友良英プロデュース)など数多い。いわば知る人ぞ知る存在だ(「GLOW」2016年1月号の「小泉放談」で、小泉今日子さんと「ここからどう生きる?」「俺たちに明日はないのか?」と同世代対談掲載)。

 彼女が松江で「スクールMARIKO」をはじめて3年になる。福島のこととか、原発のこととかを考えるという趣旨で、交流のあった大友さんのコンサートからスタート、年に数回の講習会を重ねた。規模は小さいものの着実に参加者を増やしている。そんな彼女に、本業の傍ら、スクール運営のウラカタを始めることになった経緯を聞いた。

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── スクールの立ち上げはどんなふうに?

 

浜田真理子(以下同) NPOの正式名称が「松江サードプレイス研究会」といって、それが母体となって「スクールMARIKO」になっていくんだけど。スクールはサードプレイスの1プロジェクトなんです。
 そこのメンバーの誰かが、こういうのをやりたいと言ったら、ほかのメンバーが応援する空気が出来上がっていて、「浜田さんもメンバーに入ってくれたんだから、やりたいこと、どんどんやってくださいよ」と言われ、「じつは、こんなこと考えているんだけど」「それは長い目でみたら会の趣旨から外れていないので、みんなで応援しますよ」となって、サードプレイスのメンバーと、わたしが集めてきたひとたちでスタートしたんです。

── 浜田さんは会の中で、どんなことをされているんですか?

 
 経理とか、わたしは出来ないから、「そういうの、得意です」というひとに「じゃ、任せたね」と頼んで、わたしは講師のひとを呼んでくる係です。一年目は、震災直後に「プロジェクトFUKUSHIMA!」といって、大友良英さんや詩人の和合亮一さん、遠藤ミチロウさんたちが立ち上げたものを応援しようというので、その三人をゲストに呼んだんです。
 
── 福島を応援するという趣旨ですよね。

 そう。ほかに誰がいいかなぁと聞いたりしたら、開沼博さんというひとがいるからって来てもらったりして、それで1年目が終わった。2年目は、有名なひとじゃないひとの話も聞きたいよねって。福島に暮らしているひとに来てもらったりした。30人くらいのときもあったんだけどね。

── ゲストによって、参加者の顔ぶれもちがうんですか?

 
 それは、いろいろ。大友さんの音楽が好きだからというひともいるし、和合さんのことが好きだというひともいるし。大友さんに来てもらったコンサートは200人くらい集まりました。
 わたしがやっているんだから難しい話をする会じゃないんだけど、難しそうだって思われるみたいで、まだまだ少人数ですけど。なかには、もう何年もそういう運動をやってきたというひともいて。でも、そういうひとたちにも温かく見守っていただいています。ヘタしたら、両方からお叱りを受けそうなんだけどね(笑)。
 面白いのは、市会議員のひとが超党派で来られることもあるんですよ。共産党から保守のひとたちまで。原発反対の運動をやろう、じゃないから。

── あえて旗幟を鮮明にないことで裾野が広がっているということなのかな。

 そうそう。今年の春は「遠足」と称して島根原発をみんなで見学にいくバスツアーをやったんですよ。

── 遠足、ですか?

 
 中電(中国電力)さんに「見学したいんです」とお願いしたら、「どういう団体さんなんですか?」と聞かれたけど、もう3年目なんで「ああ、スクールMARIKOさんですか」というのでOKをいただいて。

── 行ってみてどうでした?


「へぇー、こんなリッパな建物なんだぁ」とか言いながら見て回りました。
 わたしたち、なんも知らないなぁって。大きなことは出来ないし、少人数のわたしたちが何かしたからといって、それで何かが大きく変わるというものでもないけれど、でも続けていたら、変わるものはあるかもしれないと思うんです。
 うちの親なんかも、ぜんぜんそういうのに関心がなかったのに、動員みたいにして来てくれたら、「和合さんの話、よかったねぇ」とか言ってくれるし、ニュース見て「川内原発が動いたらしいよ」と教えてくれる。そういう話、家でいままでしたこともなかったのに。だから、関心のなかった層の底上げになっていったらいいなと。

── 「スクールMARIKO」という名前を聞いて最初、いったい何をするんだろうと思いました(笑)。
 
 わたしもね、名前には反対したんです。だって、もう途中でやめられないじゃないですか(笑)。「ハマダさん、ボーカル教室でも始められたんですか?」と聞かれたりするし。わたしが前に立って何かを教えるんだと思われたみたいだけど、じゃないから。いまは「あ、わたし、日直なんで」と言っている。

── そういえば、ホワイトボードに「日直 浜田」と書いてありましたね。


 先生でもないし、校長でもないし。まあ、日直だなぁって。講師のひとに、「あのぅ、それってどういうことなんですか?」と質問する係です。

── それって、ひらたくいうと「司会」ですよね。

 
 そうなんだけどね(笑)。スタッフのみんなからも日直がいいと言ってもらって。
 3年目になってくると、だんだんスクールの説明を、市民のひとに向けてするということをやらなくてもいいようになってきました。新聞も、記者さんたちがやって来て、始まる前と後で書いてくださいますしね。

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 ☝スクール会場入口で。漫画の本について談笑している。
 ☟赤い小さなピアノで歌ったりも🎶(写真=朝山実、以下同)

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── 「毎日新聞」のひとが大阪からもわざわざ来られていましたよね。


 あのひとは松江の支局長だったひとで、「毎日新聞」の島根版で、わたし、コラムみたいなものを書かせてもらっているんだけど。後任の支局長さんも続けて参加されていています。

── 市民運動を長くやってきたのだろうなというひとたちも参加者にはおられましたが、受付のところで近藤ようこさんの漫画の話で盛り上がっておられましたよね。


 あのオジサンとはね、映画つながり。映画館でやらない原発のドキュメンタリーを観にいったりするうちに顔見知りになったんですよ。
 松江でこんなことをやっていますと言ったら、来ていただけるようになって。「真理子さんの本棚」というのを会場で併設していて、原発問題に限らず、わたしが好いと思う本を並べていたら、その中の近藤さんの『五色の舟』を読まれて、すごくよかったと言われたので、だったら、彼女のこういう本もいいですよと紹介していたんです。

── うまい具合に横つながりしていますね。


 わたし、すべて意見が同じでないといけないとは思っていないから。そんなこと、ありえないし。ぜんぶ同じだったら、「もうひとり自分がいる」だけのことだからね。
 逆に反対の意見のひととは、そういう考え方もあるんだと勉強になるし。スクールのいちばん最初に「どういう意図なのか?」と問われたひとともきちんと話したら、「僕たちはね。命がけでやっているんですよ」と切々と作業員である立場を話されるのね。涙ながらに。こっちも「たいへんですねぇ」ともらい泣きしちゃったんだけど。
 作業員のひとも、いいと思ってやっていたことが、こんなにバッシングを受けるとは考えもしなかったでしょうし。そっちの話を聞ければ一理ある。「じゃ、どうしたらいいんだろう?」という。
 その指導員のひとは、いまは新潟に転勤されたけど、島根にいる間に友達みたいになれて、「あれが定年後だったらなぁ」と言っておられましたよね。
 わたし、揺るがないリーダーじゃないから(笑)。そこは迷っていいと思っている。いますぐに答えを出さなくてもいいものについては。

── 和合さんが講師のときも、とくにマトメのような話もなかったですよね。よくある、そういう催っぽくなかったですね(笑)。


「答えが出ないで終わるのはどうなんですか?」と聞かれたりしたこともありましたよ。でも、あらかじめ答えが決まっているものって、つまらんと思う。
 勉強って、やっているうちにわからないことが出てくるでしょう。どんどん、やればやるほどわからないことが増えていく。たとえば「なぜ島根に原発があるのか」ということについて開沼さんに話してもらったときに、政治や経済の東京との関係とかが絡んですごく複雑なんだという。
 講座が終わってからも、みんな、うーんと考え込んじゃって、何も解決しはしない。だけど、それはそれでいい。むしろ、こんなこと知らないで、ただハンタイ!と言っているほうが楽かなぁと思った。だから「このモヤモヤはずっと保っていこうね」と、みんなと確認したんです。

── 個的なモヤモヤを大事にするんですね。


 そう。イチかゼロか。同じ考えじゃなきゃダメは、やめよう。原発に対する考え方も、スタッフの間で、あえて統一したものを出してはいないんです。
 スクールのスタンスはあっても、個人としての考えはいろいろあっていい。わたし自身は、いま動いてなくともやっていけているんだから原発はなくてもいいんじゃないのかなぁとは思っていますよ。でも、それは結論じゃない。各自、迷ってていい。だから、スクールなんです。

── やろうとしていることは繊細で、浜田さんの立場は絶妙なのかもしれませんね。

 
 わたしは有名人ではないし、スポンサーがついているわけでもない。スクールを大きく広げていくのが目的じゃないし。こんな小さな集まりが、いっぱい全国に出来ていくといいなぁということなんですよね。

── 小さな所帯がつながるということですか?

 
 ここで、わたしは50人の集まりを維持する。「ハマダさんでもできるんだから、わたしも」と、あちこちに広がっていくのを狙っている(笑)。
 スクールMARIKOを始めるにあたってメディアのひとからよく質問を受けたのは、「なんで、今頃始めるんですか?」。まだ2年なのに、終わったふうな感じがあって。

── ワタシも、しそうだなその質問。どう答えられたんですか?


「わたしはこの2年間にたっぷり考えたので、これから30年くらいは続けていきたいんです」って。もともと、わたしの音楽もそんなに注目されてきたわけでもなく、ずっと低空飛行でやってきたからね(笑)。低いところで続けるすべは知っているよって。

 

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 ☝講演後の皆勤賞の表彰式。関西、九州などからも
 ☟撤収作業をおえ、ゲストの和合亮一さんを真ん中に

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 四人からスタートしたスクールMARIKOの1年目は「プロジェクトFUKUSHIMA!」を応援する催が続いたが、翌年からは独自の路線を歩んできている。


 目標は、続けること。頑張りすぎない。燃え尽きないようにしようねって。ミーティングも、仕事が忙しかったらそっち優先でいいよ、とか言っている。
 毎回、参加してくれる皆勤賞のひとも、浜田真理子の音楽に惚れ込んで恐る恐るやってきたというひとたちで、翌年はそのひとたちがスタッフになったりして。
「えー、スタッフになったら、あんんたち会費払わないよね。いやだなぁ、収入減るの。その代わり、じゃ、誰か集めてきてね(笑)」とか言ったりしながらスタッフが増えて、いまは10人くらい。
 今年からのメンバーに島根大学の人文の先生がいて、島根に転居して7、8年になるんだけど、彼もわたしのライブがきっかけで、職場と家との往復でほかにやることもないからと入ってくれたんだけど、去年の皆勤賞だったひとなんですよ。

── スタッフの中での上下がなさそうですね。

 
 みんなタメ口だしね(笑)。年上のひとにちょっと敬語を使うことはあっても、好きでやっていて、来たいから来ているというのが前提で、会社じゃないし。それぞれ、誰それはパソコンが得意だよね、彼は力持ちだよねとか言って、分担したりしながらやっている。「わたしなんか……」と遠慮するひとはいないから。

── 「行かなければ」「やらなきゃ」じゃないんですね。会場の設営、音響のセッティング、物販とか片付けとか、それぞれテキパキと動いておられたけど、人選というか人員配置はどうなっているんですか?

 
 このひとに頼んだら、うまくやってくれそうというのは見ているとわかるし、これは苦手なんだろうなというのも。市役所のミサちゃんは美人なので、交渉ごとは彼女に行ってもらおうとかね(笑)。
 わたしが何度メールしても返事がないのに、彼女がしたらすぐに講師のひとから返信があったりして。オジサンにめちゃ強い(笑)。
 それは半分冗談だけど。みんな大人だから、自分で仕事を見つけてやってくれている。「こういうのがあったらいいよねぇ」とつぶやいたら、本屋さんで働いているひとが会場案内のボードを作ってくれたりする。ドラえもんみたい。
 それでわたしは、みんなの御輿に乗って、メディアのひとを呼ぶのは任してって。何かあったら責任をとるからねって。

── 「わたし、日直だから」ですか?


 そう、日直なんで(笑)。
 ミーティングもね、今度いつやる? 待ち遠しいなぁって。「ああー、またミーティングだぁ……」というのは嫌じゃないですか。いまは、次は何しようって。ミーティングにエネルギーを割いています。

 

☟つづく


☟オマケ。扉写真の、福島県相馬市での「みんなのしあわせ音楽会♪」に浜田さんが参加されたときのレポート)

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☝スクールMARIKOの新聞「スクマリレター」の拡大コピー版が、
壁新聞みたいに拡大版が壁面に貼ってあった

☟マスコット?両目の入ったダルマ

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 「先の見えない戦時にありながら、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの家族がいた。未来を言い当てるという怪物「くだん」を一座に加えようとする家族を持つ運命とは──(スクマリレターより)

 ☟自由人な父をもち、温泉街の置屋に間借りしながら大学に通っていた頃のハナシは、市井小説の情緒があって、しかもおかしみがある。自伝エッセイ集。 

胸の小箱

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黒の舟唄-浜田真理子

 

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