人生、一回くらいはチヤホヤされてもいいじゃないか。
【わにわにinterview ウラカタ伝⑥】
「情熱大陸」に出たい、と言いつづける漫画がネットで話題の宮川サトシさんに話を聞きました。【3/4】
インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫子
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── この漫画(『宇宙戦艦ティラミス』)は、今後もまだまだ続くんですか?
「しょうもないことを思いつけなくなるまで続けたいですね」
── 1巻は、コックピットの中だけの話が多いですが、今後は?
「さすがにそれじゃ続かないなので、だんだん外に出ていくようになりましたけど。でも、再びコックピットというものの意味を考える展開で、そこに戻っていきます。もともと僕は狭いところが好きなんですよ」
── ワタシが不思議に思うのは、主人公がイケメンなのにライフスタイルが引きこもりだというところ。コンプレックスを抱く理由がなさそうに思えるんですけど。
「ハハハ。どうなんでしょう?」
── ワタシは子供の頃、自分の容貌にコンプレックスがあって、消極的な性格や人と話すことができないのはぜんぶそのせいにしてきたくらいで。顔が違っていたら人生は変わっていたのにって。
「イケメンの人って、これは僕の想像ですけど、自分がイケメンかどうかは鏡を見ないとわからないというか。それより誰かと何かして傷つきたくないというほうが 勝つんじゃないかな。カッコいいのに、美人なのに、彼氏や彼女がいないという、その人なりの悩みはあると思うんです」
☝コックピットの中、戦闘中にシャツを前後ろ反対に着ていたことに気づき動揺するエースパイロット。『宇宙戦艦ティラミス』➀ 宮川サトシ原作、伊藤京作画(新潮社)から。(アサヤマ撮影)
── 宮川さんは、たとえば、ご自分のことを「ハンサム村」の住人か「ブサイク村」の住人か、どっちに属していると思っています?
「うーん。僕は、ちょっと特殊なところがあって、というのも(大学生のときに)骨髄移植をして、放射線治療を受けたりして肌が黒くなったり、髪の毛が抜けたりと後遺症があって。でも、昔はちょっとだけイケメンだと思っていたときもあったんですが、突然ボコボコになって、ひとが寄り付かなくなったんですよ。気を遣われるようになって」
── へぇー。でも、話をしている感じは、ねじくれたものがないですよね。素直な話され方をしているし。話すときの姿勢もちゃんとしているし。
「モテるモテないに関していうと、最近の悩みは、じつはそこなんです。東京に出てきてからの友人や知り合いと呑みに行ったりしたときに必ず話題になるのは、自分がどれだけモテるか」
── 俺ジマンを聞かされて、嫉妬するわけですか?
「僕にはそういうこと何一つないんですから。飲み会に誘われても、『漫画、読んでます』で終わりですから」
── どうなりたいということですか?
「率直に言って、モテたい(笑)」
── ハハハ。そのモテ願望は『情熱大陸』に出たい、という願望に通じるんですか?
「かもしれない」
── 不特定多数のみんなにチヤホヤされたい?
「ああ、そうですね。モテたいというのも、『情熱大陸』に出たいというのも、チヤホヤされてみたいということなんてしょうね」
── それって高校生がモテたくてバンド始めました、みたいなことなのかなぁ。
「漫画はモテ要素にはならないんですよ。そのために描いているわけでもないんですけどね。母親が亡くなった漫画を読んで『泣きました』というのはあっても、モテにはならない。まあ、いいんですけどね。いや、よくないか(笑)」
── ハハハ。このインタビュー、聞いたままを文字にすると、どういうふうに伝わるのかなぁ。でも、話を聞いていると、宮川さんっていいひとだなぁと思いますね(笑)。
「たとえば、テレビに出てくるイケメンの俳優さんが、タモリさんから『モテるでしょう?』といわれて、『いやあ、ボクなんか』と返す、あれは見ていて嫌なやつ だなぁと思うんですよ。僕は、描いている漫画がそんなにヒットしているわけでもない。もう若いわけでもない。モテないのも事実だし」
── ところで話を戻すと、宮川さんはハンサム村? ブサイク村? 自己認識としてはどっちなの。
「モテない現状からみると、ブサイク村ですかね」
宮川さんが、同席していたカメラマンの山本さんに「どうですか?」と話をふり、美人ほど自分の容姿に自信をもっていないというある調査結果の話になり、 モテには容姿よりも重要な要素があるのだというふうな話になっていく。おとな三人が、きまじめに喫茶店でモテについて語っているのはなんだか滑稽な気がしてきた。 それを察してか、
「結局、美人じゃなくても、感じのいい人がモテたりするんですよね。それで、たぶん、ここにいる三人に共通しているのは、ネクラなことじゃないでしょうか」
── ハハハ。学校の先生のようにして、一瞬にしてマトメちゃいましたね(笑)。
「塾ですけどね」
── 「ブサイク村」というのは、劇作家の鴻上尚史さんがエッセイでよくご自分のことをそう書かれていて、そんなブサイクでもないあのひとが「ブサイク村ですから」というのもヘンだなぁと思ったりしていたもので。
「生き様がイケメンなところがあるからところもありますよね。プロフィールを抜きにしたら、たいがいの人はブサイク村だと思うんですよ。二つに振り分けるなら。でも、その質問、難しいですよ。“中間の村”がほしいですよ。僕は、第三の村のほうが居心地よさそうだし」
── なんでこんな話になったんでしたっけ?
「自意識がどうのという話からですよね」
── ああ、そうか。ジブンで振っておいて、すみません。
「なんかのヒントにさせてもらいますよ(笑)」
── 以前、週刊誌のインタビューさせてもらったときに、撮影を担当したカメラマンの女性が、ビルの外階段を利用して宮川さんを芸能人ふうに撮ろうとしていたんですが、その彼女が帰り道に「イケメンでしたね」と言っていたのを記憶していたものだから。
「えっ、そうなんですか!? なんかいまメッチャ、気分いいです。今晩はスヤスヤ眠れそうだなぁ(笑)」
モテの話から、宮川さんが、スマートホンを取り出し、昔の写真を見せてくれた。眼鏡をかけ、細身でスラッとしている。カメラマンの山本さんが覗き込み、「女子の好きな、雰囲気イケメンですね」。もう一枚、眼鏡を外した写真には、「新井浩文に似ていますねぇ」と。
「この当時はモテたんですよ。小さい頃、幼稚園はまだ可愛かったんですが、小学校に上がってからブクブク太りだして」
小学生から高校生までは肥満体だったが、予備校の往復を徒歩した効果か、浪人時代に痩せ始め、「大学に進学する頃には色気付いてメガネをコンタクトに代え、大学デビューを狙っていた」そうだ。そして、闘病によりさらに痩せた。
「父親がもう八十を超えているんですが、僕は歳をとってから生まれた子供なんですよね。浪人中に食生活がヘルシーになったのも痩せられた原因かも。大学に入ってからはちょっと髭を生やしたりして、『あっ、モテたかな』と思ったら、病気になって。結局、モテたという体験がないんですよ」
── でも、奥さんは恋愛結婚じゃないんですか?
「これもちょっと特殊で、大学一年のときに初めて彼女ができて、モテたかなと思ったら、二年生のときに白血病になって、医者から余命三ヶ月といわれ、骨髄移植をすすめられるんです。ひとごとのような感覚になってしまって。『骨髄整形症候群第七染色体欠損』という、ちょっと難しい病気で、これまで治った前例がないそうなんです。16年前のことですけど。
それで、うちの兄の奥さん(義姉)の知り合いに、沖縄のユタみたいな(霊媒師?)オバサンがいて、何をしたら助かるか見てもらいなさいと言われ、そういうの信じてなかったんですが、そのオバサンに『あなたは死なないから』って。そう言われると信じたいじゃないですか。名古屋の病院に入院してからもオバサンが何度か通ってきてくれて、結果的に助かったんですね。
でも、入退院を繰り返しているうちに、内定が決まっていた就職先から病気が理由で取り消され、そんな感じで社会に放り出されたんです。
退院すると、もう闘病者でもない。何者でもない、無職。そのとき、オバサンに言われたんです。『あなたは、ひとにメッセージを送って、人助けをしていく運命にあるんだよ』。それで、5年間通うことになるんです。オバサンがやっている横にいて、ただ見ているだけなんですけどね」
── 見ているだけ?
「思ったことを、横にいて言えばいいから。あなたには、そういう素養があるからって。先祖がどうのこうのって話を聞いてもわからないけど、面白かったので通っていたんですよ」
── その5年間の生活費は?
「そのオバサンは村の相談役みたいなこともしていて、近所で『うちの子、勉強ができなくて』という話を聞いたら、このひとが教えてくれるよ、というふうになって、村の子供たちの勉強を見るようになったんです。
もともと就職しようとしていたのが塾だったし。それが口コミで広がっていったんですが、5年もするとオバサンが豹変してゆくんですよ。崇められるようになって、お金に執着しはじめて」
── ありそうな話ですね。
「説明が長くなったんですが、うちの奥さんは、そのオバサンのところに来ていた相談者のひとりで。家がオバサンの近くで、母親が病気でなくなっていたこともあって、彼女は母親みたいに思っていたんですよね。それで三人でご飯を食べにいったりしているうちに、つきあうようになった。
だから、モテたというんじゃない。オバサンがおかしくなったときに、ふたりでそこを飛び出したんですけど」
── いい話ですね。どうして、ドキュメンタリーの番組の依頼は成立しなかったのかなぁ?
「やはり、いまの光の部分が足りないからじゃないですか?」
☝子供時代の宮川さん。
宮川さんは、しきりと「モテたい」という。とはいえ、モテてどうこうなりたいというのでもないらしい。丸いジブンの欠片を探して旅をする絵本があったが、その素直さが面白いなぁと思う。
「じつは今回、アサヤマさんじゃなかったら、断ろうと思っていたんです。というのも、インタビューをひょいひょい受けてきて、嫌な思いをすることが多くて。ネットの動画配信の企画で呼ばれていったら、へんにイジられて不快になったり、ライブハウスのイベントで酔っ払ったお客さんから、『オマエ、つまんないんだよ』とからまれたり。なんで時間をさいて、ギャラも出ないのに、こういう思いをしなきゃいけないんだ。もう次は断ろうと思っていたんですよ」
── タイミング的には最悪だったんですね(笑)。
「以前、『週刊朝日』のインタビューしてもらったときに、アサヤマさんが言ったんですよ。『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の漫画でいま注目されているけど、もう一回ほかの話で波がきそうな気がするって。それをずっと信じて、漫画を描いてきたんですよ。あきらめずに」
── そうなんだ。
「もう、あれ以上にセンチメンタルなものは描けないだろうと、いろんな人に言われてきたし。『情熱大陸』の漫画を描きたいといっても、需要はないですよ、と編集者からそっぽを向かれるし。コックピットもの(『宇宙戦艦ティラミス』)も、粘って粘って、ようやく企画を通してもらったんです」
── ワタシは、『情熱大陸』の漫画を見たとき、面白いことやっているなぁ。でも、どこまで本気なんだろうか。何か深いものが潜んでいるのか。そうでもないのか。話を聞いてみたいと思いながら、様子を見ていたんですよ。
「ハハハ」
── それで、漫画の中に奥さんが出てきたりして、自分を客観視する余裕を感じたのと、コックピットの漫画もそうですけど、「自意識」がテーマになっているんだなとわかったので、『母を……』のあと、どうされていたのか話を聞いてみようかと思ったんです。
「前にインタビューしてもらってから2年経って、メールで何か変わられましたかと言われて、変わったものがあるのかと考えながら今日はここに来たんですが、好き嫌いがはっきりしたことはあるかもしれないですね。
自分の好きな漫画、嫌いな漫画がわかってきて、ちょっと自信がついてきたように思います」
── 具体的には?
「嫌いなものは、ウソ。人が亡くなったときに、それをネタにするのとか。友達が死んだというのを漫画にして、自分でリツイートして流行らせようとか、事件とかあったときに便乗してリツイートしているのとか、商売のニオイがするのを見るとゾッとする。そこは二年前にはなかったことですね。
自分も、漫画を描いて、人の死について考えるようになったのもあると思うんです。というのも、母親の死について描いたときに、父親に『描いていいか』と聞いたんです。いちばん、母親の死を悲しんでいるのは父親だと思ったので。でも、友達が死んでどうのという話を描いたりする人たちは、ちがうんじゃないかって」
── それは居酒屋で、同級生の自殺をネタにするようなことへの違和感にちかいものなのかなぁ。
「かもしれませんね。飲み屋だったらまだあれですが、商品にするのはダメだと思うんです、なんか泥棒をしている感じがするんですよ」
インタビューを始めてから2時間くらい経っていた。『情熱大陸』っぽく、自宅での取材を申し込んでみたものの、愛犬がいるので難しい。興奮して吠えるから、と。ただし、犬を連れて近くを散歩するのに同行して撮影するのは大丈夫というので、吉祥寺の駅からバスに乗ってご自宅まで向かうことになった。
☝ 入室する代わりに、宮川さんに自撮り(大陸っぽく)したもらった自室の仕事場 ☟
次回につづく☞宮川さんが、クラゲが食べられると知ったのは3歳のときだった。 - わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)
ネットで読める宮川サトシさんの近々の漫画は☟
母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 (BUNCH COMICS)
- 作者: 宮川さとし
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/08/09
- メディア: コミック
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【ウラカタ伝に登場してもらった人たち】
➀アクション監督が語る、「スタントマン」になるには☞大内貴仁さん
③島根で「福島」について考える「日直」歌手☞浜田真理子さん
❹「スンタトマン」の世界を漫画にする☞黒丸さん
⑤「自分史」づくりが面白いという☞中村智志さん
⑦「困ったら、コマムラ」の便利屋☞駒村佳和さん
❽見入ってしまうメオト写真を撮る☞キッチンミノルさん
⑨タイで起業した写真家☞奥野安彦さん