便利屋「こまったら、こまむら」さんが困ることは?
【わにわにinterviewウラカタ伝⑦】
「こまったら、こまむら」
ITプログラマー出身、調査から鳶職までこなす便利屋・駒村佳和さん【3/4】
インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫子
「こまったら、こまむら。」の便利屋を営む駒村佳和さん。妻の田中みずきさんはペンキ絵師。学生時代に弟子入りし、出版社に勤務しながらも修行を積み、会社を退職して独立開業した。いまや日本に三人きり、唯一の30代の若手職人だ。仕事が入ると、ふたりで銭湯に向かい、駒村さんが足場組みをする。ふたりの出会いも銭湯でのイベントだったという。
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☝「こまったら、こまむら」さんのとある一日。
東京都大田区の「第二日の湯出(太田黒湯温泉)」でお風呂場の絵の描きかえの助っ人をする(撮影©waniwani)
── どのような依頼が多いんですか?
「いまの時期(インタビューは晩秋の日)ですと、花が落ちて植栽を小さく整えるのに便利なこともあって、剪定が多いです。3月、4月は引越し仕事ですね」
── 引越し業者さんに頼むほどでもないというケースですか?
「そうですね。大きな荷物だけ運んでくださいとか。引っ越し屋さんだと、家電の設定とかまでやってもらえないので、AV機器の設定やパソコンのネット接続を頼まれることが多いです。大きなところがやらないところをやるのが私たちの仕事ですかね」
── 引越しのクルマは?
「それはレンタルで、お客さんが手配されることもありますし、こちらが手配することもあります」
── 人手のほうは?
「そのときどきで、音楽の仕事をされている人とか、ふだん人力車の車夫をされている人とか、いろいろ。二、三日前に連絡しておくと、みなさん自由業なので都合をつけてきてくれて。逆に応援にいくこともありますし」
── エアコンの設置とかもされるんですか?
「それは知り合いの電器屋さんに頼みますね。一緒に行って設置の手伝いをするので、お客さんにしたらワンストップで、ここに連絡すると全部やってくれるというふうに思われていると思いますが」
── 以前、引越しのときに「エアコンの取り外しは自分たちでもやれるけど、取り付けは専門の業者さんに」と言われたんですよね。できなくはないんだけど、もし何かあったときに責任はもてないからって。
「そうですね。専門的な道具を使うこともあるので、そこは職人さんにお任せして。わたしの場合は、ご依頼を受けると一緒に行って作業することで、いくらか職人さんから分けてもらうというのが多いですね」
── そうそう。以前、駒村さんが話されている「ボクナリスト」のネットのインタビュー記事(前回記事で詳しく触れています)を読んでいてびっくりしたのは、エアコンの取り付けの依頼を受けた日の帰り道にエアコンの設置をしている職人さんを探して、そのひとに声をかけるということをされていたとか。
「あのときは『この近くでエアコンの取り付けをお願いしたいというお客さんがいるんですが……』とお声かけをしたんです。依頼を受けた現場の近くで、というのは、職人さんの商業エリアとして一致していると思うので。じつは植木屋さんもそれで見つけることが多いんですよ」
── というと?
「突然声をかけられたほうからしたら、なんだろうと思われるでしょうけど。『あ、いま脚立から降りたな』というタイミングを見計らって、『ああ、こんなふうにするんですねぇ』と声をかけるんですよ」
── 駒村さんは、相手にとけ込むフンイキがありますものね。しかも、ただの好奇心ではなく、それを仕事にしておられて。
「それは余裕があるんじゃなくて、じつは必死だったりするからじゃないですかね。何日後にはそういう仕事が迫っていて、なんとかしないといけない。これは、出来る方と一緒にするのがベストだと思ってはいるわけですよ」
── それは?
「たとえば剪定の依頼だと『もう住んでいない家なので、外にハミ出している枝を払ってくれるのでいいから』という依頼が発端で、でも仕事をさせてもらうからにはただ枝を伐るんでなく、樹がいいようにしたい、見栄えよく整えたいと思っていたんです。ポイントとしては、完全なものを求められてはいないんだけど、機会があれば技術を勉強しておくということですかね」
── ところで声をかけるのは、得意なほうですか?
「じゃないです(笑)。緊張しますからね。ただ、わたしは世の中の人はみんな対等だと思っています。職業によってエライとかエラクないは、ない。だから声をかけるくらいはいいかなと」
☝写真撮影©ガヂヲ
銭湯のペンキ絵の塗り替え現場・カヂヲさんは若手カメラマンでもあり、この日は足場のサポートをしながら撮影もこなしていた。巻頭のスライド写真のいっぷく中の左端のひと。
── つまらない質問ですが、ひとに道を尋ねるほうですか?
「アプリがない頃は聞いていたほうですね」
── ワタシは方向音痴なんだけど、切羽詰らないとなかなか聞けないんですよね。このあいだある作家さんの小説を読むと、世の中は道をすぐ聞ける人と、聞けない人に分かれるみたいな話(余談ながら、津村記久子さんの『浮遊霊ブラジル』という短編集の中の「運命」がそれ)があって。ところで駒村さんは、ひとから警戒されないタイプというか、自分は得していると思います?
「どうでしょう(笑)。体力的には得していると思います」
── 便利屋の仕事上、困ったことってあります?
「そうですねぇ……。お金が、売掛金はあるのに現金がなかったりするときですかねぇ。なまなましい話になりますが(笑)」
── でも、いちばんにお金のことが出てくるというのは、現場の人間関係とかでストレスを感じることなくやってこられたということですかね。
「ああ、たしかに。そういうことでは恵まれているかもしれませんね」
── 意地悪な訊き方になってすみません。「こまったら、こまむらさん。」が困ることを知りたいと思ったんです。
「依頼を受けて、一緒に考えていきましょうということもあるんです。すぐに解決策が浮かばないので、調べてみるということでいいですか?とお聞きして」
── 試してみるという場合の料金はどうなるんですか?
「時間で頂くしかないんですよね。『うちにコウモリが棲みついたのを撃退したい』というご依頼があったときは、調べたら法律的にコウモリは捕獲したり殺傷したらいけないらしい。それで、どういったものが苦手なのか。コウモリが習性として暗いところでもまっすぐ飛んでいけるのは、超音波を出しているからで。その超音波に影響するものを置くと嫌がって来なくなるんじゃないか。そう考えて、磁石を吊るしてみたところ解決できました」
── へぇー、磁石か。それだと料金は?
「作業にかかった半日ぶんと調べにかかったぶんをすこし上乗せさせてもらいました。これはうまくいったケースですが、同じよう鳥に関するご依頼で、椋鳥の場合はうまくいかなかったんです。キラキラした糸を張って追い払おうとしたんですが、まったくダメで。そのときは一時間の料金と材料費はいただきましたが、その後一週間ぐらいしたら雛が巣立っていったということで、その後のご依頼もなくなりました」
── そうした調べもの系は好きですか?
「どうしたらいいんだろうというご依頼のほうが燃えるかもしれませんね。解決のイメージできないものをやりとげるというのは」
── 調べのは、本来の便利屋さんの仕事の範疇に入るものなんですか?
「わたし自身のキャパを超えていないと思えるものはお引き受けすることにしています。一般の便利屋さんはどうとか考えたことはないんですよ。たとえばフランチャイズ形式の便利屋さんは、『したい仕事』をやっているのかなぁと思ったりすることもありますね」
── 「したい仕事」ね。日ごろの仕事での達成感というと?
「たとえば、植栽を伐採するときに根っこからしてほしいというときに、本職の植木屋さんだと、伐ったあとに穴をあけて除草剤を入れて腐らせたり、大きな樹だと重機を使って引っこ抜いたりするんです。重機は大変だなぁと思って、工事現場などで使うコンクリートを砕く機械を使ったらどうだろうかと考え、やってみたら上手くいったんです」
── ドドドドッ!!とやる手持ちの機械ですよね。
「そうです。あとで『その発想は、植木屋にはないな』と言ってもらえたときは、広く浅くですが、いろんなことの知識をもっていてよかったなと(笑)」
「できない事意外はなんでもできます!」が標語の「こまったら、こまむら」。不用品回収、引越、庭木剪定、除草、清掃、家具移動、代行、パソコン、塗装、修理……先日はめったに着ないスーツ姿の正装でスタンウェイのピアノの音色を聴いていたという。依頼の中身は、クラシックのコンサートを撮影する機材の警備で、そこにいるだけで「役得でした」とか。とくに「これはどうしたらいいんだろう?」という、困らせされる依頼ほど燃えるのだという。便利屋の仕事のいいところは、毎日ちがう場所に出かけていく。同じ一日はないことだと駒村さんが話すと、なんか楽しそうだ。
次回は最終回、あるお宅の倉庫の解体現場に同行します
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