わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

写真のチカラ ──あるいはイッセー尾形とキッチンミノルのカンケイ

 

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【わにわにinterviewウラカタ伝⓼】
ちょっとミョウな「夫婦」写真を撮りためてきた、キッチンミノルさんに聞く【1/3】

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インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫

(2017.2 銀座キャノンギャラリーにて)

 

『ああ、オレも行けばよかった』
と悔しがらせたらサイコーじゃないですか。


 大判の分厚く膨らんだファイルが何冊も、写真展の会場に置かれていた。焼付けられたカラー写真がとじられている。無粋ながらかかった費用を尋ねた。
「1冊で30万ぐらい」。一点の焼付けに3000円、しかも納得するまで焼きなおしの注文をするので、どうしてもこれぐらいかかってしまうらしい。
「写真はお金がかかりますねぇ。作品を撮ろうとしなければ、そうでもないのかもしれないですけど、作りたいと思うので」
 南伸坊をおもわす、にこにこ顔の彼はモノをつくるのも、その過程を写真にするのも好きなひとだ。

 

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 この日インタビューした場所は、銀座のキャノン・ギャラリー。昨年9月に刊行した『メオトパンドラ』に収録されている写真が展示されている。本のサイズで見てはいているものの、大きなパネルに引き伸ばした写真で見るとまったく印象が違ってくる。まず目がいくのは、主人公である夫婦の姿だが、しばらくして撮られた背景をじっくり覗き込んでしまう。

 もともとは「AERA」誌で7年間350組の夫婦を撮影した中から100組を選び、詩人の桑原滝弥さんの詩とともに1冊の本にした。被写体は「夫婦」。ときに子供や、その場に関わりのある人が混じることもある。たまに著名人も入っているが、ほとんどが見ず知らずのイッパンのひとたち。だけど、なぜかじっくり見てしまう。細部を。ふふ、となる。見るほどにヘンな写真たちだ。

 

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 キッチンさんに初めて会ったのは、5年くらい前になるだろか。表参道のイッセー尾形のライブ会場で、旧知の「AERA」の編集者から、お客さんとして観に来ていた彼を紹介された。物腰の穏やかなひとだなと思ったのを覚えている。

 当時、AERAの終わりの方の頁で彼が「はたらく夫婦カンケイ」という夫婦の写真を撮っていたのは知っていた。被写体となったふたりの視線はどこか宙を見つめるようで、風景の中に精巧な人形を配置した印象の、とてもミョウな写真で、見るたびに「すっごく嫌、この写真」と思いながら、決まってその頁から真っ先に見ずにはいられない。「こんなふうに人を指図して撮るなんて、我の強い、コウマンチキな人間にちがいない」と思いこんでいた。

 
【キッチンミノル(以下略)】 イッセー尾形さんのひとり芝居の何が好きか? ……そうですねぇ。たぶん、イッセーさんが演じる人間が好きなんです。人間のダメな部分を見せてくれるじゃないですか。あの目線って、僕にも少なからずあって、写真を撮るときに。落語もそうですけど、人のダメなところも肯定するところがあって、『生きてても、いいよ』というの。それにイッセーさんは、特別な人間を演じているようで、フツウなんですよね。

 

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 キッチンさんはその昔、落語家になりたいと思ったことがあったとか。高校時代、学校をさぼってよく寄席に行ったりしていたらしい。市井の人たちの「生活の一場面」を切り取るイッセー尾形の舞台のどこに惹かれてライブを観ていたのかもう少し聞いてみた。


 見ていて『俺みたいだ』と思うんです。僕は、かわいいと思うんですけど。人間のヘンな部分をすごく丁寧に演じていて。

──たとえば、どんなネタが好きだったりしますか?

 壁に挟まっていくの※たぶん「ヘイ、タクシー」という作品。深夜、接待の帰りなのか、つい狭いビルとビルの隙間に足を踏み入れてしまった背広に黒カバンのサラリーマンが、なんとか抜け出ようとするものの、どんどん身体は奥へ奥へ。脂汗とともにニッチもサッチもいかなくなるというもの)。ちょっとだけボタンを掛け違ったために、ああなってしまう。あるなぁ、と思いますよね。あとは、OLが在庫管理をしているのとか。

──それはどんなだろう? 「壁男」は初期のサラリーマンネタの有名な作品だけど、「在庫管理」というのは後期のネタにあった記憶はあるんですが。関西弁のやり手な女上司が部下に指図するような話でしたか?

 そうですね。一見すると苦手なタイプの女のひとなんですが、だけどかわいい。たぶん、この辺(写真展の会場のパネルをぐるりと目が追っていく)に写っているひとにも同じようなところがあって、悩みながら夫婦をやっていて、試行錯誤しているというか。たぶん、本人たちは見られたくないところを僕が撮っていたりすると思うんです。もちろん、かわいいなと思いながら撮っているんですけど。

──見られたくないところを撮っている?

(AERAの連載時に)ライターさんがインタビューを1時間くらいやっているのを聞いていると、そういう部分が出てくるでしょう。僕は、そういうのをかわいいなと思う。その部分が写真に出るように、わざと撮るんです。それは、イッセーさんを見ていて刺激されるというか。

──たしかにイッセーさんが演じる舞台のキャラクターは、「じつはこれ、あなたがモデルだよ」と告げられたら、当人は少ながらず複雑な感覚を抱くだろうなと思うようなところがありますよね。キッチンさんがイッセー尾形に興味をもったのは、いつごろですか?

 名前はだいぶ前に知っていたんですが、ライブを見るようになったのはアサヤマさんに会う一年くらい前から。それまではお金がなくて。やっと余裕ができて演劇とか見るようになったころ。それに、いっとき落語家を目指したことがあって挫折したものだから、なかなかそういう世界に足を向けづらいというのもあって(笑)。30代になって、ようやく行ってもいいかなと思うように。

──落語とイッセー尾形と夫婦の写真は、キッチンさんのなかでは、つながっている?

 つながっていますね。さっき言ったみたいに、落語もフツウだけどヘンなひとたちが出てきますし。

──なるほど。ところで、イッセーさんのネタには、親が離婚して片親だったりする家庭のドラマがあったりしますよね。かわいそうな人たちというのではなく、ぎくしゃくしている様がいとおしくなるというか。

 僕も、肯定している感じが好きです。家族が離婚したり別居したりしていて、久しぶりに親子三人で対面するという、距離がとれなくてギクシャクしたりするあの感じは、自分が子供のころに体験したそのままだったりするんですよね。わかるというか。『ああ、あったなぁ』と。みんなみたいには、アッハッハとはならないですけど。

──そういえば、イッセーさんのライブは日本だと笑いが重なるんですが、海外公演、とくにドイツで観たときは、ひとりだけ大笑いしているひとがいたりして、ひとりひとり心に響くポイントが違っていたりするんだろうなぁと感じたことがありましたね。

 イッセーさんは、とても細かいところを見ていて、ちょっとした仕草やクセに、こういうのを見て、このネタが生まれたのかなぁというのはありますよね。で、僕もそういうのが好きなんですよね。

──クセじゃないですが、ワタシはインタビューのときには耳にしていながら、なんとなくスルーしていて、テープ起こしのときに聞き返していて、あらためて面白いことを話しているなぁということがあるんですよ。現場では「ここは重要だぞ」とは思わずに、ピン止めし忘れていたというか。先日のキッチンさんのインタビューだと、「顔以上に手とか、つま先がその人を物語っていたりすることがある」という話をされていたのがそうなんですよね。

 そういうこと言ってましたね(笑)。

 

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──テープ起こしをし終わって、あらためて『メオトパンドラ』の写真集を見返すと、女性は総じて自然体なんですが、男の人の手つきが微妙にカタいんですよね。

 そうそう。細部に出るという話ですよね。

──顔よりも、手のほうがそのひと自身の内面を物語っている。あれは、カメラマンになってから。それとも、もっと前から、そういう感覚を抱き始めていたんですか?

 そうですねぇ……、たとえば小学校の入学式のときにエライ人が喋っているのを見るよりも、(壇上に列席しなから)まだ喋っていない人を見るのが好きだったんですよ。そういう人たちの落ち着きのなさは、手とかに出るんですよね。子供だから話とかに興味ないし。『ああ、この人も、つまらないんだなあと思いながら聞いているんだ』とか思うとホッとするじゃないですか。

──そういう子供だった?

 はい(笑)。でも、それは写真を撮るからそういうふうな目線になっていたわけではないと思うんです。演劇を見ていても、関係ない人を見ていたりしますから。

──喋っている役者ではないほうに、自然と目線がいっている?

 だから、大物になれない。どんなときにもメインを見ないでいるので(笑)。それで、さっき言われた『ピン止めしない』というのは写真にもあるんですよ。撮っている最中は気づかないでいたものが、写真になったものを見て、ここまで写っているのかという発見があるんですよ。

──狙いがあって撮影しているんだけど、撮ったものがそれを超えるということですか?

 写真って必ず意図をもって撮るんですが、その中に偶然性が入っていて、自分がそのとき気づかずにいたものが、たまたま入ったりする。自分が意識して撮ろうとしたところじゃないところに、(夫婦の写真でいうと)ふたりの意思が出ているというのが、写真を大きくしてみたときにわかることがあるんですよ。

──たとえば、この展示されているなかでいうと?


 そうですね。この写真(夫は打楽器奏者で写真家、妻は女優)。キッチンで撮ったんですが、真ん中にある炊飯器に気づいてなかったんですよ。

──かなり使い込んだ旧式の炊飯器ですね。

 撮っているときは、上の棚にある手作りの鍋のほうを狙っていたんです。でも、写真をみたときに、よかったなと思った。

──この写真でワタシがまず目がいったのは、スーツ姿の男のひとのオレンジ色のメガネとグーにした手ですよね。

 それは意識していました。

──でも、意識されていなかったと言われたけど、白い炊飯器そのものは写真の中心にあるんですね。

 そうなんですよ(笑)。

 

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──あっちの、お茶の販売をしている夫婦の写真。これだと、「玄米茶 和紅茶 緑茶 かんたん 便利 おいしい」という手書きのPOPに目が行きますが。それは意識されている?

 これはそうですね。

──どこを見てください、という目線の指示はされているんですか?

 このときはレンズを見てくださいと言っていますね。写真になったものを見ると、奥さんのほうの服が(襟のラインが左右で斜めに)ちょっと下にズレているんですが、撮っているときは気づいてないんで何も言わなかった。細かいですけど。


 並んで写真を見ていたカメラマンの山本さんが、「わたしが好きなのはそういうところなんですよね。本人も気づいていたら直したりするんでしょうけど、そのまましているところがいとおしくなる」という。そういえば、よく俳優さんの撮影の際に、スタイリストのひとが、ちょこまかと駆け寄ってはミリ単位の修正をする様子を目にするが、そういうちょっとしたところを本人が気にしているかどうかというのはその人を物語る大きなポイントだったりする、ということらしい。


──相手を見せたりしたときに、「ズレているから別のにしてほしい」とか言われたりしないですか?

 これだと、もし嫌だと言われてもなおさないですね。あえて言わないと気づかないでしょうし。たとえば、顔の表情で本人に確認をとったら「これは嫌」というものもあると思うんです。不機嫌そうな顔をしているから嫌だとか。そういうのはそのままです。

──それは?

(そこに写っているのが)そのひとだからですよ。

──それは雑誌に載せてもらいたくないと、もし言われたら?

『申し訳ないですが』と言って、これは『AERA』という雑誌のために撮っているもので、それには本人の本質が出たほうがいいんです、と説明すると思います。ただ、それが本人にとっては、いい写真かどうかというと別ですよね。

 僕は、どちらかというと『読者の立場』に立って撮っていて、撮られたふたりの本質が出ていないといい写真だとはいえない。

──なるほど。

 本人に依頼されて撮っている場合であれば、『笑顔』の写真を撮っていると思います。でも、僕が狙っているのは本質なので、たとえ嫌だと言われても『あなたのために撮っているわけではないので……』と言いますね。

 でも、ギリギリのところで本人を立てて撮ってもいますから、トラブルになったことはこれまで一度もなかった。今回の展示の中にも、ちょっと怒っている感じの写真もあるんですが、再使用をお願いしたら『喜んで』と許可していただけました。


──それは写真の意図が伝わっているから?

 そこはどうかわかりませんが、写真の力だと思います。こういうふうに写真に残ったというのは、ほかのひとには撮れないものだと思うんです。

──自信はどこから?

 自信はないです。ただ、『読者のために』と考えるとそうなるんです。

──そうした発想はいつごろから?

 それは大学時代からです。友達とサークルの旅行に行ったとき、行かなかったやつが悔しがる写真を撮りたいと思ったんです。

 わかります? 写真を見て、『ああ、オレも行けばよかった』と悔しがらせたら最高じゃないですか。そういう写真だったら、撮られた本人もぜったい喜ぶんです。なぜなら、その人たちは撮られている瞬間を経験しているので。写真だけ見ているわけではない。だから、撮るときは、きっといい写真になるというふうに思わせることが大事なんです


山本カメラマン「たとえ、ヘンに見える顔でもそのときにキッチンさんとのやりとりで、ワクワクすることがあるからでしょうね。それで誌面になったとき、こんなふうに撮られたのかと恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ち。両方が混ざった感じになるんだと思いますね」


 なかには見て、「嫌だ」と思うひともいるとは思いますけどね。

──そうかぁ。ワタシはインタビューの相手から、これで終わりますねと言ったとたん、「大丈夫ですか?」と聞き返されるのがしょっちゅうで、それはまとまりなくいろんなことをいっぱい聞いて、そのひとが準備してきたことは質問しなかったりするからなんでしょうけど。

 僕だと、撮影は疲れさせないといけないと思っていて。とくにAERAのときは、相手に『やっと終わった。ああ、撮られた』と思わせる撮影をする。

──それは時間の問題じゃなくて?

 じゃなくて。『もう、いいでしょう』と言いたくなるところまで迫って撮るんです。


 そうかぁ、もういいでしょう、と耳にしても怯まないんだな。
 キッチンさんをインタビューするのは、これが二度目。前回は、「週刊朝日」の「書いた人」という著者インタビューで、昨年の11月11日号に記事が載っている。何冊かの雑誌とともに、その週刊朝日も会場に置かれていた。彼のお母さんは何冊も買ったのだという。インタビュアーとしては、最高に嬉しいことだ。
 もう一回会っておきたいと思ったのは、原稿用紙にして3枚程度のコンパクトな記事の断面からはみ出てしまう、ノリシロともいえる彼のこだわりの一面を採譜しておきたいと思ったからだった。

 

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◫キッチンミノル「メオトパンドラ」写真展は、2017.2/16~2/28札幌、3/9~3/15大阪・梅田、いずれもキャノンギャラリーにて開催

次回に続く☞ぼく、モアイ像が好きなんですよ。 - わにわにinterview「ウラカタ伝」

 

メオトパンドラ

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