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わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

お化けが怖くてトイレに行けなかった、葬儀屋さんのハナシ

【わにわにinterview ウラカタ伝番外編】

アンチな葬儀屋さん

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文=朝山実

 

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 前回を読む☞http://waniwanio.hatenadiary.com/entry/2016/09/03/182443

 関西で葬儀屋さんを営むMさんのインタビューの続きです。
 Mさんは頭髪を短く刈り込んだ面立ちが楽天イーグルスの嶋捕手に似ているので以降、仮に嶋さんと呼びます。
 ご遺体をあつかうのが、嶋さんの仕事。霊柩車の運転手を経て葬儀屋を独立開業して5年になる。以前はトラックの運転手などしてきたが、いまはこれが天職だと思っている。そういう嶋さんだが、驚いたことがあった。

僕、子供のころ、めちゃくちゃお化けが恐かったんですよぉ

 どういう話の流れからだったか忘れたが、笑いながら嶋さんが昔話をしたのは、今回インタビューする前に聞いたことだった。あまりに意外な打ち明け話だったので、「それで何でまた葬儀屋さんになったのか?」とあらためて訊ねてみた。

「もう、むちゃくちゃなビビリで、子供のころは。便所もひとりで行けない。だから、いつも妹や親父を起こして行っていたくらい。とにかく眼に見えないものが怖かったんです。想像力が豊かというのか(笑)。
 夏になると、テレビとかでよく怪談話をやるでしょう。あれ、めっちゃ見たいんですよ」

──えっ、怖いのに見たい?

「そう。めっちゃ見たいんです。でもねぇ、見たら、めっちゃ後悔するんですよ。そういうのもあってかもしれないんですけど、トラックに乗っていたときも、錯覚かもしれないけど、そういう現象が起きたりするんです」

 長距離ドライバーがよく口にする怪奇現象みたいなものを嶋さんも幾度か体験してきた。それが不思議なことに、いまの仕事になってからは一度も体験していないし、夜中に遺体の傍にいても怖いとか思うこともないという。

「よくいわれることですが、生きている人間のほうがなんぼか怖いですから(笑)。
 それに僕が思うに、たぶんね、死んだら何もない。無やと思うんです」

── この仕事をしていてそう思うようになったということですか?

「そうですね」

── それはまたどうして?

「うーん、どういうたらいいのかなぁ……。
 たとえば、どんな犯罪者であってもね、爺ちゃんも婆ちゃんもおったんですよね。それで、もしも本当にあの世があるんだとしたら、ひどい犯罪を起こそうとしていたら、『おまえ、それはやったらあかんで』と言いにくると思うんです。
 それがないということはそういう力もないんじゃないのかなぁと思う。あの世じたいが存在しないんじゃないかって。
 でも、そういうことをいうとね、輪廻転生で、悪いことをした人間はずっと悪いことをし続けるんやという人もいますよ。ただ、でも、僕にしたら爺ちゃんなり婆ちゃんなりが『○○、それはやったらあかんやろう』と止めにくるんじゃないのかなぁって。
 それに無念の思いで死んだ人がいるとしたら、このへんにいっぱい霊がいてることになるやないですか。だから、無やと思うんです。
 それにホトケさんの皆がみんな、病院でなくなるわけではないですよね。自宅でなくなる人もいるし。飛び込みで自殺する人もいるし。そういう人らと携わってきているやないですか。そうすると何かあっても、おかしくないというか」

── 霊にとりつかれる?

「そうですね。霊的な現象というか。たとえば、うちの会社に霊安室があるんですが、どうやねんって。でも、何も起きないですよ。
 まあ、これはあくまで僕個人の意見ですよ」

── いや、葬儀屋という仕事を選ぶのはどんな人なんだろうと思っていたので。しかもお化けを恐がっていたひとが、よく葬儀屋を選んだものだと思うと面白いですね。

「ただね、奇妙なことというと、寝台車で自殺した人のお迎えとかするでしょう。なんでか知らんけど、葬儀終わるまで、めっちゃ首とか痛いんですよ。そう。しんどいんです。それが三日くらい続くんです。
 そういうことはありますね。まあ、緊張しているからかもしれませんけど。でも、だから、嫌やとかいうのはないです。
 なんでかというと、もし(僕がしないと)誰がするのん?って。もう半分、使命みたいなもんですよね。誰に頼まれたわけでもないですけど。それに、なんかの意味があるから、(ご遺体を見たとき)この人はここに来られたんやなと思うんです」

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 嶋さんは高卒で、露天商の「たこ焼」やパチンコ店で働いたり、30代のはじめまで転職を重ねてきた。いまの仕事に落ち着き、40代になったいま、めっきり体力が落ちたという。今後、転職する可能性はあるのか尋ねてみた。

「もう変わらないでしょうね。なぜ? 
 うーん、なんやろうねぇ。僕は学もないし、何もないし。そうね……。
 亡くなられ方にもよるかなぁ。このあいだみたい、若い奥さんがガンでなくなられて、ダンナさんひとり残られたんですが、精神的に不安定になってサポートしたらなあかんときもあるんですよ。そうなったら、葬式で故人さんを送り出すだけじゃなくて、そのあとのケアというか、そういうのも葬儀社の大事な部分じゃないのかなあと思うようになってきているんですよ」

── 葬儀を終えてからも、個人的に話を聞いたりするということ?

「頼ってこられる人とは、その後も電話してこられたりしますね」

── それは仕事の範疇を超えていますよね。

「ぜんぜん。本当なら、そういうのをお寺さんがするものなんでしょうけどね

── でも、そういうふうに葬儀のあとからも電話してこられたりするというのは、葬儀じたいが良かったということでもあるんでしょうね。

「僕のことを信用してもらえたということかなぁと。
 位牌とか仏壇とかもね、お願いされるんですよ。本当なら、そういうとき、仕入れ値に幾らか乗っけないといけないんですけど、それをしないんでガソリン代ぶんがアカになったりするんですよ。だけど、そのお客さんが喜んでくれたらいいかなって」

 顔はパッと見、イカツイが、体育会系の経歴ゆえか礼儀正しく、笑顔に愛嬌がある。くわえて、なんだか商売のヘタなひとでもある。
 どうなんだろうか。嶋さんのように遺族の話し相手となることを厭わない葬儀屋さんは、業界でも変わり者なのだろうなと思って訊くと、「たぶん」と笑い返された。

 つづきます

 

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