わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

宮川さんが、クラゲが食べられると知ったのは3歳のときだった。

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【わにわにinterview ウラカタ伝⑥】

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情熱大陸」に出たい、
と言いつづける漫画がネットで話題の宮川サトシさんに話を聞きました。【4/4】

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インタビュー・文=朝山実
写真撮影 © 山本倫 

  

「このあいだ、テレビ東京のドキュメンタリー番組のディレクターさんの話を聞いたんですが、『なんでクルマの中でインタビューしているのを撮るのか』、クルマの中が一番本音が出るというんですね。運転しているときには、脳みそは前方に集中しているので、いいんだと」

── ああ、なるほど。隙をつく感じなのか。でも、ワタシなんかの紙媒体の取材だと、時間がないから移動中のタクシーの中でとか、列車の中でインタビューするというのはあるけれど、時間がないのでやむなくという事情で、本音を聞き出したという感覚とはちがいますねぇ。


 吉祥寺の喫茶店を出て、そんな会話をしながら、バスの最後列の席に着いた。


「テレビだと、忙しさが出るというのもあるんでしょうね」

── あとテレビで多いのは、メシの場面ですよね。

「あれも漫画の中でも描いたんですが、メシを食うところは、いちばん庶民に近づくんですよね。豪勢な店に行くのではなくて、自分もふだん食べているようなものを食べているんだというのがわかると親近感がわく。このひと、立ち食いうどんを食べているんだとか、山崎のランチパックを食べているんだとか」


 そんなことを話をしながら、宮川さんがちらっと隣を見て笑っている。
 バスの後部座席にはワタシ、宮川さん、カメラマンの山本さんと着席した。宮川さんの視線を追うと、山本さんが隣り合わせになった見知らぬ小母さんと話し込んでいる。宮川さんが、くすっと笑っている。すぐ隣にいると会話が耳に入って、面白いらしい。


── 『情熱大陸』の漫画は、単行本になるんですよね。書き下ろしの部分はあと、どれぐらい必要なんですか?

「いま五話分まであって、あと三話を書き下ろすんですが、二話ぶんはデータを中心にした話にしようと思っていて。
 これは僕の自論ですが、出ている人たちに共通しているのは、長身であること。男子と女子の全出演者の身長を調べて、平均を出し、全国平均と比べて検証しようとか。誰がどんなメシを食っていたのか一覧だとか、『情熱大陸』に関する仮説を検証していこうとしていて、読み物として面白くしようと思っているんです」

── それ、読みたいですね。

「漫画としては、言いたいことは言い尽くした気がしている。いまは、あの漫画を描いたことで起きた反響を含めた、後日談のほうが面白いんですよね」

── あの番組は有名になりすぎてパロディーにもされることが多いのに、宮川さんはそれでも「出たい」という。どこまでマジなんでしょう。

「そうなんですよね(笑)。目線を変えたかったところはありますね。出たいというか、出られたらいいなというのはありますが、あの番組に出ることが業界の中で成功した人間だという空気を変えたいというのはあるんですよね」

── というと?

「自分みたいな、何物でもない人間が『出たい』と言い続けることで、出ることがちょっと恥ずかしくなる。そういう空気が出てくると面白いんじゃないかなって。
 僕の漫画を思い出して、プッ、となる。そうなると成功かなと思っています。それもあって、漫画の中ではビンゴゲーム(
出演しそうな人の顔を升目に描いて予想する)を描いたりしていたんですよね。次は誰が出るか当てようみたいな」

── ビンゴは、当たりたいような、そうでないような。景品は欲しいけど、当たって前に出て、いろいろ司会のひとから聞かれたりするのは嫌だなぁと思ったりしますからね。
AERA」という雑誌で、長めの人物ルポをしていたときに、前後して取材したりすることがあったんですが。あとになってみると、「情熱大陸」よりも先に自分たちがやったというのがちょっと自慢だったりしたこともありましたね。

「そういうふうに意識させるというのは、番組の持つブランドなんでしょうね」

── そういえば取材中に、岡林信康さんを追っているクルーを見かけたことがありましたね。コンサートの打ち上げがあって、ワタシが取材していた歌手のひとがそこに参加するというのでついていくと、カメラやライトをもったテレビの人が10人くらい、けっこうな人数がいるんだなぁって。漫画家の浦沢直樹さんにインタビューするのが狙いだったらしく、歌手のひとも流れで、その場でコメントをお願いされて、放映を見たら一瞬だけ使われていたけど、だから半年とか一年とか取材するということは、当然使わないことが多いんだろうなって。

「そうかぁ」

── だけど、紙媒体だと、じつは使わない取材のほうに面白い話がいっぱいあって。「○○さんのことについて話を聞かせて下さい」というので会って話を聞くうちに、ちょっと話が逸れてきたときに、そのひとが面白く思えてきたりする。
 なんでマネージャーになったのかとか、いまはぜんぜん違う道に進んだ仲間の近況だとか。ただコメントをもらうだけじゃなくて、文章に話しているそのひとの人となりも出したいと思うんだけど、容量が限られているので、長めの初稿ではほかのすこしだけ書くことができても、最終段階で削り落としてしまうことになるんですよね。

「漫画の世界にもアドバイザー的な仕事があって、すでに大ヒットしている漫画家のひとに何かをしてもらうんじゃなくて、そのひとのアシスタントをしていた漫画家さんに、当時どうだったかを漫画にしませんかというアプローチをしたりするんですよね。

 視点として、本人が語るよりも、ほかのひとに話させることで、ひとの背中というのがよく見えたりするというのはありますからね。なぜ自分は成功したのかを言わせるというのは、もう飽きてきた感じはあると思う。むしろ、他人が言うほうが面白いんじゃないかな。そういうのって、テレビ東京的な感じなんでしょうけど」


── 誰かについて語るというのは、丁寧にトレースしたら自然とその語り手のキャラクターも出たりしますからね。


 20分ほどで、バスを降りた。山本さんが、おばさんに丁寧に挨拶していた。またどこかで会った時はよろしくと。

 宮川さんが暮らしているのは、東京郊外の長閑な住宅街だ。岐阜から上京してから同じところだという。「住む」と決めたポイントをたずねると、水木しげるさんの住まいに近い場所を選んだという。

 

 

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── 結婚してからの転職を兼ねた転居に、不安はなかったんですか?

「一度、死ぬかもしれない病気を体験したら、恐いことはなくなりましたから」

── そういえば、以前インタビューしたときに、漫画家に対するこだわりもないと話されていましたよね。もし漫画がダメなら、また別のことをすればいいって。こだわらないというか、執着のなさが、漫画家になるために上京したというのに、その感じ、すごいなぁと思ったんですよね。

「一回しかない人生だから、楽しまないと思うからでしょうね」

 

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 愛犬はフレンチブルドックの「ゲンコツ」くん、4歳。買ったときには頭の大きさが拳くらいの大きさだったという。
 そのゲンコツくん、なんだか背中の体毛の一部が円形脱毛していた。


「撮影があるといったら、こうなったんですよ」


 ハアハアと前をゆくゲンコツが、ときどきこちらを見返してくる。

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「飼い主よりも、イヌが前を歩くというのは、しつけができていない証拠なんですよね」


── ところで、いつもする定番の質問をしていいですか?

「いいですよ」

── いちばん古い記憶ってなんですか?

「うちの母親の姉の家族と、二家族で、海に行ったとき、生まれて初めて海に浮かんでいるクラゲを見たんです。そのとき母親が、『これに醤油をかけたら美味しそうだなぁ』と言ったのをめちゃくちゃ覚えている。
 クラゲを見たこともなかったし。醤油って(笑)」

── 即答でしたね。

「すごくよく覚えているので。クラゲを食べるというのは当時、想像できなかった」

── 次の質問ですが、一番を答えず、二番目に大事なもの、あるいは大切なことを教えてもらえますか?

「……一番は答えないんですね。
 仕事、ですね。漫画じゃなくても、自己表現すること」

── 仕事ですか。

 では、最後の質問です。最近、ちょっとだけ嬉しかったことは何ですか?

「ちょっと、ですか。さっき『イケメン村』って言われたことかな」

── そうなんですか?

「ちょっとじゃなくて、だいぶ、うれしかったので、しばらく余韻にひたると思いますね(笑)」

 

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 散歩の坂道で「ゲンコツ」と呼びかけ、山本さんがカメラ目線を要求する。ハアハア。突進する感じのゲンコツ、なんだか張り切っている。
 宮川さんの家族は現在、妻と1歳の娘の三人。「はなえ」という愛娘の名前は、デビュー作『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った』にも出てくるが、他界した母親が考えていた名前である。

「漫画(『母を亡くした時、』)の中に描いたからといって、妻の意見も聞かないで、そうしようとするなんて。最初は勝手なやつだと思って、考え直そうとしたんです」

── でも、結果的にそうしたのは?

「妻が入院していた産婦人科の看護婦さんが、病室に僕の本を持ってきて、サインしてもらっていいですか、と聞かれたんです。
 そのとき、妻は久しぶりに読み返したんだそうです。『これは、もうハナエにするしかないかなぁ』と思ったというんです。初めて客観的に物語として読んでみて」

── いい話ですね。『母を……』のほうに出てくる奥さんは、等身大なんですか?

「あれは、そうですね。『情熱大陸への執拗な情熱』のほうは、ツッコミ要員としてキャラを作ったりしていますけど、ふだんのままです」


 そんな話をしていると、前方から「ああー」と手を振る女性がいた。病院で看護士をしている妻だという。
 せっかくなので、漫画に「妻」が出てくるのをどう思っているのか、彼女に聞いてみた。

「ああ、嬉しいですね。応援していますので。はい」

 こんな機会もそうそうないかと、ゲンコツを間にして撮影を頼んでみた。

「ゲンちゃん、はずかしいねぇ。芸能人のひとって、すごいよねぇ」と妻。
「タレント犬にはならないのは、よくわかっています(笑)」と宮川さん。


「さっき、質問されたでしょう。質問されるのは大好きなんですよ。だから、なんだと三つだけなのかと思った」
 という宮川さんに、別れ際に手のひらを見せてもらった。ペンダコのない、やさしげな手をしていた。今回の一枚目の写真がそうだ。
 ゲンコツを間に二人の写真も撮らせてもらったが、目立つのは苦手との妻の要望で掲載は残念ながら。かわりに、ゲンコツくんのアップを。

 

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 宮川サトシさんに聞く。 おわり。
情熱大陸への執拗な情熱』は、今月末から連載が再開されるそうです。

 

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