わにわにinterview「ウラカタ伝」 (わにわに伝)

ふだん表に出ないけど、面白そうなことをしているひとを呼びとめ、話を聞きました。

スタントマンについて知りたい。

スタントマンから「アクション監督」となった、
大内貴仁さんに聞きました。【1/6】
 

f:id:waniwanio:20150818074131p:plainわにわにinterview アクション監督って、どんなことをするの?

「これができるのは、スタントマンだけです」
 

アクションで観客を魅了する、その姿は映るが、存在は隠されている。ある意味、影武者のような職業がスタントマンだ。

 

f:id:waniwanio:20150815085902j:plain

 
 

大内 スタントマンといえば、高いところから落ちるとか、炎の中を潜り抜けるとか、クルマに当たるといったイメージがあるでしょう。でも、この10年間でCGが発達し、ワイヤーを操作するアクションも出てきて、いまは身体を張るスタントは減ってきています。


大内貴仁さんは、アクションチーム「A‐TRIBE」の代表で、スタントマンを経て現在は「アクション監督」として活躍している。仕事の中心は『るろうに剣心』シリーズをはじめ、『SP 野望篇・革命篇』『黒執事』などの映画。ほかにも、国民的なアイドルグループのPVの演出もする。
ちなみに「A‐TRIBE」は、大内さんを含め4人全員がフリーランスの精鋭集団。「ベストスタントマン」に贈られる賞に幾度も選出されるなど、業界では名が知られている。
スタントマンの平均年齢は、意外と高い。20代は希少、30は若手に入る。専業は百人にも満たない。
 

大内 アクションのある映画に呼ばれるメンバーは、ほぼ同じ顔ぶれなんですよ。

ということは、ヤル気次第。若いひとにとっては、ねらい目の職種かもしれない? なかでも「身長が高いひとが少ない」ので急募中だという。

大内 「アクション監督」って、わかりますか?
 

── 映画のエンディング・ロールの撮影、照明、美術といったスタッフのところに名前が出てきますよね。
 

大内 そうです、そうです。スタントの状況が変わるにつれて日本でも「アクション監督」という名称が出てきたんですが、それもここ数年です。一般のひとに、アクション監督といっても、ピンと来ないかもしれない。一本の映画に、二人も監督がいることになるわけですから。
 簡単にアクション監督が出てくるまでの流れを説明すると、日本映画には時代劇などで振り付けをする「殺陣師(たてし)」というひとたちがいて、「アクション監督」というのは香港から入ってきたものだと思います。
 香港映画には独自のアクションの歴史があり、アクションシーンの撮影時の現場の指揮はアクション監督がとります。
 たとえば、香港ではアクション監督が「このシーンで、こういうものが必要」と言えば、すぐにスタッフが用意する。身体がぶつかりテーブルが壊れるといえば、予備を含め、同じものが三つは準備される。
 ケガをしないよう、壁にはウレタンなどのやわらかい素材を貼り、壊れやすいように細工が施されてある。ぜんぶが特注です。それが香港のスタイルで、撮影部、照明部、美術部、衣装部、すべてのスタッフが、動きにあわせて用意するものを熟知していているんです。
 衣装も、「芝居用」と「アクション用」が用意されていて、靴にしても本物そっくりの「アクション用」の動きやすい靴が用意されている。
 

── アクションが中心にあるんですね。
 

大内 アクションシーンを撮影するからにはそれが当たり前だというのが香港映画の考え方なんです。予算の有無に関係なく。
 香港のような環境は理想で、それにはまだ時間がかかるかもしれませんが、日本でもアクションを見せる作品が増え、少しずつですが、アクション撮影への理解は高まってきているように感じてはいます。
 

香港で経験を積んだ大内さんは、「日本のアクションを変えたい」という。それは、現場の一つひとつの改革の先にあるらしい。

── アクション監督というのは、怪獣映画でいう「特撮監督」に近いと捉えていいですか?

大内 近いかもしれませんね。「アクション監督」のほかに、「アクションコーディネーター」というのもあって紛らわしいんですが。

── 二つのちがいは?

大内 撮影現場での安全面を指揮したり、アクションの動きを考え、役者さんに指導したり、カメラの位置によって、殴り方のアドバイスをしたりする(対戦シーンでパンチは身体に当たっていなくても、カメラの位置や角度でヒットしているように見せることができる)のがアクションコーディネーター(またはスタントコーディネーター)の主な仕事です。作品や人によって関わり方は違いますが。
 アクション監督は、さらにアクションシーン全体の構築、カット割り、編集まで関わります。映画とテレビでもちがっていて、テレビだと事前の準備を省いて、その場でやっていくことが多く。どうしても時間が限られているので、絡みのシーンでも、役者さんに段取りを教えるだけで時間が一杯いっぱいになる。
 映画であれば、たとえば『るろうに剣心』の続編シリーズでは、撮影の2ヶ月前から準備や役者のアクション練習にとりかかっていました。これはそのときの役者レッスンの映像です。この日は、スタントマンを8人呼んでやっています。

テーブルの上に大内さんは、いつも携帯しているというノートパソコンを置き、映画のクランクイン前に撮影した練習風景のビデオをアップさせた。こんな映像だ。ひとりの男を、集団が取り囲む。次々と男に斬りかかっていく。スピード感のあるアクションが展開されていく。

── 本番そのものようで見入ってしまいますが、これはまだ練習なんですよね。こういう映像を撮ることの意味はどこにあるのですか?

大内 練習といっても、これは「基礎練習」ではなく、実際の「撮影用のアクション」を練習してもらっています。
 本番と同じスピードで動き、本番と同じカメラ位置を想定して撮影しています。そうすることによって、役者は「自分がどういうふうに見えているのか」を確認することができ、さらにこう見えているなら、こういうふうに動いたほうがアクションが観客にもわかりやすい、といった検証材料にもなります。
 このようにして撮影された映像は、他の現場スタッフにも見てもらったりします。

── 現場のスタッフ全員が、具体的に目指すものを共有できるということですか。

大内 そうですね。それで、いいですか、もう一回最初から見せますね。ここ、見ていてください。
 ここで、まず、この彼がスパッと斬られるでしょう。見ていてくださいよ……斬られた瞬間、ココで彼が素早くワキによけますよね……、はい、消えます。
 まだ見ていてくださいよ。……画面の中心で立ち回りが続いている間、彼、後ろに回っていて、ほら、ここです。消えていた彼が何食わぬ顔をして前から現れて、もう一回襲いかかってくる。ね。わかりました?

「ああ、なるほど」と声をあげていた。襲いかかる一群は全員同じ装束。とくに「顔」を隠しているわけではないが、「個人」を見分ける余裕はない。動きが速すぎるのだ。勢いもある。

大内 見てもらってどうですか? スタントマンは8人なのに、何倍もの人間がいるように見えるでしょう。

── 見えます、見えます。

大内 アクション練習の度に何十人ものスタンマンを集めるというのは予算的にも難しい。それでも役者が本番にちかい環境で練習し、撮影に挑むための工夫をしないといけないんです。1対50のシーンを、10人のスタントマンで表現するというのも、そうした現場の工夫から生まれたことのひとつですね。

── ほおう。町工場の必殺技みたいですね。

大内 どうしてこういうことができるかというと、それは彼らがスタントマンだからです。つまり、斬られたあと、それぞれが次にどこに動けばいいのか、常に先に先にと予測して動いていくから、これが可能なんです。

── すごいなぁ。
 

大内 まあ、ある種、目の錯覚ですが、こういうのができるのがいまのスタントマンです。

危険なシーンの「吹き替え」を担当するタフガイというのが、ワタシが抱くスタントマンのイメージだった。それが、画像に食い入り、説明を聞くうちにどんどん崩れていった。

大内 たまにね、役者さんで「スタントはいらない。それくらいのことなら俺でもできる」と言われることがある。できるかもしれません。でも、スタントマンと役者のちがいは、万一ケガをしても「代わり」がいるかどうかです。
 端的にいえば、スタントマンには代わりがいます。代わりがきかないのが役者です。
 もうひとつは、スタントマンはその場の状況、相手に合わせてフレキシブルに動ける。「受け手」としての柔軟性があるんです。

── というと?

大内 たとえば、役者さん同士が立ち回りを演じると、互いに「自分」なんですよ。

── 「どう自分を見せるか」に意識が向かうということですか?

大内 そうです。スタントマンは、常に役者さんを「引き立てるよう」に動いていくんです。斬り込んでくるタイミングがズレたら、待って合わせる。役者さんが動きやすい位置に動いていく。これもまぁ、上手い下手があって、スタントマンの「能力」です。スムーズにいっていると、観る側は誰も何も感じませんが、受けがまずいと全体の動きが停滞します。

再び、ビデオを見る。
「ここです」と大内さんが指をさす。刀を合わせていた敵役が、すっと後ろに身を引いている。直後にあざやかに斬られた。

大内 役者さんが刀を振り抜きやすいように、一歩下がってあげているでしょう。斬られたあとも、ジャマにならない方向に倒れる。スタントが優秀かどうかは、こういうところのとっさの動き、判断に出てくるんですよ。

スタントマンに対して、タフかどうかは表層的な捉え方で、「気転が利く」のが大事らしい。素人には、練習風景は激しいサッカーを見ているようだった。

 

f:id:waniwanio:20150813143125j:plain

 ♯ 仲間と練習のビデオを確認

 

取材・文責=朝山実
撮影=山本倫

☟つづく

Copyright ©わにわに「ウラカタ伝」http://waniwanio.hatenadiary.com/ All Rights Reserved.※記事・写真の無断転載はお断りしております。