スタントマンについて知りたい。ⅱ
スタントマンから「アクション監督」となった、
大内貴仁さんに聞きました。【2/6】
わにわにinterview① アクション監督って、どんなことをするの?
「求められるのは、想像力です」
アクションで観客を魅了する、その姿は映るが、存在は隠されている。ある意味、影武者のような職業がスタントマンだ。
♯ アクションの練習中、仲間と動作について話す。
☟前回を読み直す
大内 スタントの世界はいまどんどん進化しています。昔のブルース・リーの映画だと、一人を大人数が囲んでジワジワと迫ってくる。そういう1対20という場面であっても、ひとりずつ順番に敵が襲いかかってくるというのが多かったでしょう。
ジャッキー・チェン以降のアクションは、入り乱れるように同時に何人も相手にするのが主流です。アクションが立体的になったぶん、中心から外れた、まわりにいる人間が立ち止まっていたりしたらダメなんです。
カメラに映るかどうか、たとえ小さくしか写らなくとも全員が状況を見ながら動いていく。流れによってはアドリブができないといけない。機敏な立ち回りができないと、いまのスタントマンは通用しない。作品を観ていて「なんか面白くないなぁ」と思ったりするとしたら、まわりの動きが止まっているからってこともあるかもしれませんね。
大内さんは、現代のスタントマンに求められているのは、「瞬時の判断力」「表現力」だという。職人気質なだけではダメで、大勢のスタッフやキャストで作品をつくりあげる現場だけに「コミュニケーション能力」も求められているとも。
大内 作品によっては、スタントコーディネーターやスタントマンは様々な仕事をこなします。立ち回りの殺陣(たて)を組み立て、役者さんへ「動き」の説明をするのもそうですが、役者が動く際の「安全確認」や補助も仕事です。撮影シーンによっては、ワイヤーを使って人物を吊りあげるアクションのセッティングと、「リガー」といってワイヤーを引っ張ったりします。
ほかにも、物が壊れたりするシーンだと、物に切れ目をいれたり、配置したり、時にはワイヤーを操作も。そういうのが得意なスタントマンもいます。
── それぞれに得意技があるんですね。
大内 ほかにも「こういう仕掛けがあったら面白いよね」というので、パンチを繰り出すときに使う手のギミックや、映像のエフェクトを考えたりもします。以前、公園での練習の際に見てもらった「拳」もそうです(ホンモノと見分けがつかない特殊加工。拳のなかはクッションになっていて、直撃しても衝撃はソフト)。もちろんイチからぼくらが作るのではなくて、特殊造形部などに説明して用意してもらったりします。
👆 なにげにベンチに置いてあり、なまなましい切断された腕のようでギョッとした(笑)。
これにカカシのように服を着せたりして、棒の部分を、槍のようにしてパンチを突き出す。
拳の「なか」はウレタンみたいにふかふか。当たっても衝撃はすくない。
ほかにも「最新」のワクワクするものがいろいろあったが、「企業秘密」。
👇 せっかくなので試しに実演してもらった。撮影用にスピードを減速してもらいガツン!!
やはりどう見ても見た目は「ホンモノ」の拳。アクションシーンを見るたびのナゾが解けた。
モデルは日野由佳さん。(撮影は朝山)
再びビデオを見る。今度は映画の『るろうに剣心』の立ち回りシーン。林立するノボリ旗を、キャストが刀で次々と切り払っていく。
大内 ここ(ひらめく旗の棒の中央あたり)に切れ目を入れておいて、役者さんには「この辺をねらって刀を振り下ろしてください」という。旗なんかの小道具の配置も、ぼくらがいちばんわかっているので言ったりします。でも、そういうふうに細かく言えたりする現場は、日本だとまだまだ少ないかもしれない。
ほかにもグレーゾーンがあって、ぼくらには言えないこともあります。作品のどこでスタントマンを使っているのかとかもそうですし。なかには「スタントなしでやっています」という売り方をしている作品もありますから。「スタントなし」といわず、ふつうに「本人がやっている」でいいと思うんですけどね。
あえて「スタントなし」っていわれると、スタントマンがまったく参加していないようにもとれるし、吹き替え(スタントダブルを含め)以外でも、スタントマンは作品の中で敵役などをしたりしていますからね。まあ、そういう意味でも、ぼくは裏方なんですよ。
「裏方」というとき、大内さんの声は臆せず、毅然としていた。「スタントダブル」といい、作品によっては、対戦する両者をそれぞれ代役のスタントマンが演じていることもあるという。もちろん素人目にスタントだと判るものではない。
大内 判られたら、ぼくら負けですから(笑)。顔を完全に隠しているわけでなくても、激しい立ち回りであるほど、動きを目で追っていると気づかないと思います。「では、あれはどうなんです?」と、一つひとつ確認されると答えづらくなる。
ぼくもね、オフィシャルには使っていないとされている、海外のアクションスターの吹き替えをやったこともあります。「どうして自分でやれるのにスタントマンが必要なの?」と思われるでしょうけど。
実際、そう思った。自分でやれるならものなら自分でやればいいのに、と。
しかし、俳優であると同時に「演出者」でもあるケースだと、俯瞰して現場を見る目も必要だろう。なにより、役者である本人が万が一にもケガなどすれば撮影に支障をきたす。「動き」の代役は探せても「役者」の代わりがきかないというのも理由にはある。
それはさておき、あらかじめ「二人ともが吹き替えです」と大内さんが出ている作品のビデオを見ると、一対一の格闘シーン。ストップをかけてみるなどもしたが、スタントであるかどうかは見破れなかった。
大内 ハハハハ。そのためのカット割りとかを考えるのがアクション監督なんですよ。
それにスタントマンは後ろ向きでも、本人に見えるように真似をしないといけないんです。背中で、役者がやっているように見せないといけない。ここ数年のスタントダブルの傾向は、顔は多少バレても思い切りやったほうがバレにくいって感じになってきていますね。手品もそうでしょうけど、堂々とやったら少々のことではバレませんから。
担当する役者に自身の動きを「似せる」というのは、スタントマンにとってとても大事なことらしい。スクリーンに映る背中で「本人以外の何者でもない」と思わせる。影武者としての「演技力」を問われそうだ。となると、もともとの背格好や体格はどうなのだろう?
大内 背格好も重要です。映像経験豊富な背丈のあるスタントマンとなると、数人。国内だと5人もいないんじゃないですかね。最近の役者さんは175以上あるひとが多いですから、「背が高い」のは重宝されます。
じゃ、小さいとダメかというと、そうとも言い切れない。うちのチームの女性スタントマンの日野(由佳)さんは、身長は160ないくらいで、高くない。だけど顔が小さいからシュッとして見えるので、身長の高い女優さんの吹き替えもやれている。
── 立ち方や姿勢でカバーができる?
大内 それが最近のスタントマンに求められる「表現力」ってやつです。「A-TRIBE」の日野と佐久間(一禎)がベストスタントマン賞に選ばれたのも表現力によるものだと思います。アクロバットや他のことならもっとすごい人たちがいっぱいいますしね(笑)
香港の昔話になりますが、まだそんなに経験がないときに、ぼくがあるアクションスターの吹き替えに選ばれたのも、彼が葉巻を吸っているクセをよく真似して遊んでいたんです。そのしぐさが似ているというので、顔はぜんぜん似てないんですけど、彼が「タカはオレそっくりだ」と気に入ってくれたからなんです。
もともと彼のアクションスタイルをカッコイイと憧れてもいたので、撮影の合間に遊び半分で彼のアクションを真似たりしていて、アクションだけでなく、気づいたら細かいしぐさまでコピーしていたって感じです(笑)
── モノマネの能力も必要なんですね。
大内 まあまあ、ぼくのケースはともかく、スタントマンは役者の動きを完全にコピーするくらいでないといけない。刀の持ち方ひとつにしても、役者さんの真似をしつつ、カッコよく見せる。さきほど「表現力」と言いましたが、そういうハイレベルなことも最近のスタントマンには求められるようになっていますね。
取材・文責=朝山実
撮影=山本倫子
☟次回につづく
👇大内さんたちを現場取材し「スタントマン」の世界を描いたマンガ。オススメ!!
【ウラカタ伝に登場してもらった人たち】
➀アクション監督が語る、「スタントマン」になるには☞大内貴仁さん
③島根で「福島」について考える「日直」歌手☞浜田真理子さん
❹「スンタトマン」の世界を漫画にする☞黒丸さん
⑤「自分史」づくりが面白いという☞中村智志さん
⑦「困ったら、コマムラ」の便利屋☞駒村佳和さん
❽見入ってしまうメオト写真を撮る☞キッチンミノルさん
⑨タイで起業した写真家☞奥野安彦さん